ゲー廃雨音R3

              //一週間後くらい 5日目

              //教室

「兄貴―ごはん行こ!」

昼休みに入るや否や、夏樹が振り向いて俺を食堂に誘う。

「もーお腹すいたよー授業ってなんでこんなに長いの」

お前は大体常に腹減ってるだろ。

いつものことなので、適当に受け流して食堂に向かう。

              //移動 廊下

「あー、そういえば雨音が昼誘えっつってたな」

雨音はここ一週間部室に入り浸ってゲームばかりしていたのだが、俺たちが兄弟で揃って昼食をとっていることを知ってなぜかぷりぷり怒り出した。

「あたしもゲームしながら昼メシ食べたい!」

俺らでもしてねえよそんなこと。

              //小カット

雨音の教室前に来たのだが――。

「……なんだあいつ」

「固まってるね」

変なところを見たまま固まっている。

「おい雨音」

「――!」

俺が声をかけると、すごい勢いで振り向く。

「春賀~~~!」

泣きながら俺にすがりつく雨音。

こりゃ犬モードだな。

「雨音ちゃん、どうかしたの?」

「……これか」

雨音の机の上に裏向きで広げられていた紙をめくってみると、結構やばい点数の答案用紙だった。

「先週のテストのだね……どうやったらこんな点数取れるの」

同じく点数がよろしくなかったナツでさえドン引きするレベルである。

「春賀~、あたし実は、本当は、勉強苦手なんだよ~!」

「知ってるが」

「知ってるよ」

俺とナツが綺麗にハモって言うと雨音はさらに顔を崩す。

「このままじゃ追試も赤点だよ、たすけて……」

周りの目も気にせずわめきだすものだから、腰に巻き付いている雨音を引っ張りながら教室を出た。

 

              //移動 食堂

食堂に連れてくる間になだめておいたが、ここまで来ると本当に飼い犬をしつけている気分だ。

「勉強教えてくれ!」

雨音がもごもご飯を頬張りながら言う。

「わかったからとりあえず口の中を空にしてくれ」

フウも合流してちまちま食っているが、すぐに食事を終えて寝てしまうだろうな。

「当然ながら依頼料をもらうことになるが」

雨音に確認を取ると、形容しがたい顔で頷いた。

「うん、うん、そうだな、まあ、仕方ないよな、うん」

自分に言い聞かせるように雨音が呟く。

「依頼を受けるのは俺だが、まあ今回の依頼内容ならフウの出番だな」

「? 何でだ、冬花は1年生だろ」

雨音が首を傾げる。

「たぶんこの学校内ではフウより頭のいいやつはいないぞ」

「……そんなに頭いいのか」

ただ少し懸念はあるんだが……まあとりあえず今回の依頼はフウに任せよう。

「ということだがフウ――」

「Zzz」

すでに落ちていた。

「……まあしかたないな、とりあえず放課後、部室に来い」

「ん!わかった!」

しかしこいつよく食うな……ナツと同じくらい食ってるぞ。

「やっぱりここのメシはいいな。いくらでも食べれる!」

この学園の食堂は美味しいと有名なのだ。

「だよね、私もここ入ってご飯の量増えちゃった」

前から多かっただろ。

「……まさかとは思うが」

嫌な予感がして聞いてみる。

「雨音お前、食堂で高校選んだってわけじゃないだろうな」

「そだよ」

「いやいや兄貴、さすがにそんなこと――えっ」

「どこ行ってもおなじなら、メシうまい方がいいだろ!

ここの食堂のために必死に勉強したんだぞ」

恐ろしい執念だ……。

「まあでも、その気合がここで出れば追試もこなせるだろ」

「兄貴、私にも勉強教えてよ」

ナツもやはり点数がやばかったようだな。

「じゃあ雨音といっしょにフウに教えてもらえよ。ちょうどいい」

「えー、兄貴が教えてよー」

「いや俺が教える必要ないだろ、フウのほうが――」

「やだやだー兄貴がいいー!」

おいこらくっつくな。

「あ、あたしもできれば春賀に――」

              //チャイム

「なんか言ったか、雨音」

予鈴に重なって雨音が何か言った気がしたが……。

「い、いや、なんでもない、うん! なんでも!」

雨音が手をぶんぶん振りながら慌てる。

「そ、それじゃ、放課後な、頼んだぞっ」

顔が赤かったが大丈夫かな。

「俺らも行かないとな、授業遅れる」

「そだね、行こ」

「Zzz」

どうするかねこの毛虫は……。

 

              //移動 廊下→教室

フウが起きないので1年の教室まで背負って連れてってやったのだが……。

「おかげで大遅刻だ、あいつめ」

「あたしが行けばよかったかな?」

「わざわざお前が行ったら教師からの評価が下がるだろ」

「兄貴が怒られるよりいいじゃん」

お前はただ単に目立ちたいだけなんじゃ。

「……それより、ちゃんと授業受けておけよ、ほら」

ナツをつっついて前に向けると、担当教師が目の前でにっこりと笑っていた。

「あなたたち堂々とおしゃべりとはいい度胸ね」

「あはは……はは」

「夏樹さん、春賀くん、39Pの問2を黒板に書いてください。

できなかったら課題追加だから」

夏樹が固まる。

「……俺がやるか」

仕方ないな。

「春賀くん、あなたいつも寝てばっかりでテストもいまいちだったわよね。

「はは、まあ。妹の評価を下げられるわけにもいかないですしね」

教科書をパラパラとめくりながら軽口を叩く。

「今更教科書見てもわからないでしょ」

「そうですかね」

黒板に数字列を並べて席に着くと、数学教師の彼女が唖然とする。

「……間違ってたか」

周りが少しざわつく。

クラス替え直後であまり知り合いはいないものだから、他の人に確認することもできない。

「え、ええ、合ってるわ、あなたこんな難しい問題解けるの?」

「テンプレにあてはめるだけの問題ですし、ナツでも解けますよ。

……それで、課題は増やされることになるんですかね」

「……次から私語はないようにね」

なんとかなったか。

「兄貴、ありがと」

やれやれ、クラス内でもあまり目立ちたくはないんだが。

 

              //チャイム

「春賀くんって頭よかったんだね」

「なあちょっとさっきの問題教えてくれよ」

「こことかもわかる? 教えて!」

授業が終わったあと、何人かのクラスメートに声をかけられた。

さっきの授業で無駄に目立ってしまったか。

「授業中ずっと寝てるからあんな頭いいなんて思わなかったわ」

「というか普通に怖い人だと思ってたよね」

「変な部活やってるしな」

俺このクラスでそんな風に思われていたのか。

「兄貴はいまから部活だから、また今度!」

ナツが俺の腕を取る。

なっちゃん、ちょっとだけお兄さん貸してよー」

「だめ! いまから私が勉強教えて貰うんだから」

ナツはクラスメートとも仲がいいから盛り上がっている。

俺はただのコミュ障だからな……人との会話は苦手だ。

「春賀ーっ!」

雨音が飛び込んでくる。

「やるぞっ早くっ」

どうやら気合は十分のようだな。

「あの子いつも来てるけど何なんだ?」

「春賀くんもう彼女いたんだ、ちょっとショック」

「通い妻だな」

やめろ。

「依頼だ依頼、こいつの成績が絶望的すぎてな、すまないがお前らに教えるのはまた今度だ」

「いっしょに教えてよ」

「依頼は2つ以上受けないのがルールなんだ、こいつの追試が終わるまでは勘弁してくれ。

……というか、そんなに難しくないだろこれ。教科書40Pぶん暗記するだけで簡単に解ける」

何人かが教科書をめくる。

「暗記って、春賀くん授業ずっと寝てたのにいつの間に」

「40Pくらいならすぐに覚えられる」

「すぐって……先生に怒られてたあのときに覚えたの?」

驚愕の声が上がる。

「兄貴は一回覚えたことは絶対に忘れないんだよ!」

なぜかナツが自慢げに胸を張る。

「じゃあテストとか余裕じゃねーか、ズルいなそれ」

俺の周りでクラスメートが騒ぐ。

「春賀ぁー」

放置していた雨音が裾を引っ張る。

「ああ、すまんな雨音。じゃ行くか」

尻尾が寂しそうに揺れている幻覚まで見えたが、俺が頭を撫でると嬉しそうに飛び跳ねる。

完全に忠犬になったな、これでボールでも投げればちゃんと取ってくるだろう。

「お幸せにね!」

やめろ。

              //移動 部室

クラスメートたちに別れを告げて部室に移動した。

「フウも来たな、じゃ任せたぞフウ」

「んー」

あんまり乗り気ではなさそうだが……大丈夫かな。

              //小カット

ところが30分ほどで雨音が音を上げだした。

「ダメだ、春賀っゲームやめろよ気が散る!」

どうやら俺のゲームが気になって集中できないようである。

「……ここでやるのは間違いだったな」

って、いつの間にかフウが寝てる。

「冬花の教え方も難しくてわからないし、春賀ーもうだめだー」

机にぐでーんと伏せる雨音。

やはりフウでは無理だったか……。

覚醒中のフウならわかりやすく教えていたかもしれないが、今はいつも通り眠そうな毛虫モードのフウだからな……。

「仕方ない、俺が教えるか」

貴重なゲームの時間を削ることになるが、依頼だしな。

ゲームの電源を落として、雨音の隣に座る。

「さて、これから俺が教えるのは勉強じゃない」

俺の隣に座り直したナツが不思議そうな顔をする。

「なにするの、兄貴」

「俺みたいに記憶力があれば、教科書見るだけでもある程度はできる。

だが苦手なやつにとっては勉強っていうのはそんな簡単なものじゃないだろ」

ナツがうんうんと頷く。

「ところがそんな勉強を簡単にする魔法みたいな方法がある」

カンニングだね!」

ナツが得意げに言うので、デコピンで黙らせる。

「……おい、雨音どうした」

なぜか雨音が固まっていた。

「はる、春賀っ、近いって」

雨音の顔が真っ赤になっている。

「茹でダコみたいだな。どうした、熱でもあるのか」

様子が変だったので顔に手を当ててみると、異常に熱かった。

「~~~~」

「風邪か? おい雨音、体調が悪いなら――」

「なんでもっ、なんでもないっ! あんたっ顔がっ、顔がっ!」

顔?

「俺の顔に何か付いてるのか」

「近づくなっやめろ!」

俺の胸元を押して距離を取ろうとする雨音。

「あんたの近くにいると頭がおかしくなりそうだ」

何がなんだか。

「ちょっと兄貴、早く教えてくれないかなあ」

左腕にもの凄い圧力が掛かっている。

なんでナツも怒ってるんだ……。

「……魔法とは言ったがこれは誰でもできるわけじゃない。

所詮勉強であることには変わらないからな、本人のモチベーション次第だ」

まだ顔の赤い雨音を見ると、慌てて気合を入れ直す仕草をする。

「気合はあるようだし、さっさと始めるか。

まずは一番やっかいな数学だな」

「Zzz」

おいナツ寝るな。

「数学が一番苦手なんだ……」

雨音が早速気合を削がれたように顔を歪めている。

「俺はそうは見えないけどな」

「? どういうことだ」

「雨音、俺と前勝負したスト2の1フレームは何秒だ」

「1/60秒だろ、そんなの」

「そうだな、じゃあお前の持ちキャラが弱昇竜打った時にかかるフレーム数は全部でいくつだ」

「えーと47だな、発生4で判定18で硬直が23だ」

「な、それだけ計算が早けりゃ数字には強いってことだ。

さらに言えばそれだけコマンドフレームを正確に覚えているってことは記憶力も十分ある。

お前は頭がいい」

俺が言うと、雨音の目が輝く。

「ぜんぶフレームだと思え。頭の中でコマンドを組むだけでいい。

お前がやるのは勉強じゃなくてゲームだ、頭の中で格ゲーするだけだ」

雨音がうずうずしている。格ゲーの話をしたから体が疼いているのか。

「あとは数学に関しては公式を覚えることだな。

難しいゲームを攻略する方法を知ってるか」

「そんなの、クリアできるまでひたすらやり続ける!」

「まあ、間違いではないが……。

基本は、テンプレートに嵌めることだ」

「テンプレート? そんなの、あたしは使ったことない」

「ああ、これもお前とやった初代ぷよ○よを例に出させてもらうが……。

お前の戦略、あれの基本は何だ」

俺が使った『デスタワー』と違って、雨音は『究極連鎖法』という戦略を使っていた。

これは決まった型がなく、NEXTブロックを見て臨機応変に組み方を変えるという変幻自在の連鎖法だ。

「究極連鎖法だけに限らないだろ、あんたが使ったデスタワーだって、最初の2手のパターンを――」

雨音が気づく。

「だろ。ぷよ○よは最初の2手を必ずテンプレに嵌める。たった64パターンだ。

こういう感じで、どんなゲームにも必ずテンプレは存在する。

スト2にだって、鉄板コンボみたいなテンプレはあるだろう」 

「そうか、なるほど……」

「状況に応じて記憶しておいたテンプレを引き出すのがゲームだ。

数学だってまったく同じだろ、公式っていうテンプレを引っ張り出して、それに嵌めるだけ。

な、ただのゲームだろ」

「なるほど! なんか簡単に思えてきた!」

単純でよかった。

「ねえ兄貴、なんか私よくわかんないんだけど」

ナツが耳打ちしてくる。

「まあ、わからないだろうな。適当なことしか言ってないし」

「えっ」

俺が雨音に聞こえないように言うと、ナツが声を上げる。

「だいたい、勉強はゲームほど面白くないだろ。こんなの適当以外の何ものでもない」

「じゃあなんで……」

「お前は効かないタイプだから教えても構わないかな。

勉強において一番の壁は苦手意識だ。

これがなかなか曲者でな、一度苦手と思うとなかなかうまくいかない。

俺はその壁をとっぱらってやっただけだ。暗示みたいなもんだな」

「……つまり、また詐欺まがいのことをしたってこと?」

人聞きの悪い言い方をするなって。

「効きやすいやつはだいたい根っからのバカでクソ真面目な、まさに雨音みたいなやつだ。

もともと雨音はゲームでも抜群の集中力を持っていたし、ステータスはそこまで酷くはないはずだからな」

「んー春賀、なんか言ったかー?」

自分の名前を察して雨音が反応する。

「いや、お前が追試をこなしたら褒美でもやろうと思ってな」

「ほんとか! よし、やったっ」

やはりこれも抜群だったか……。

「犬を躾るには餌をちらつかせるのが一番ってな」

「……兄貴、性格悪いなあ」

ナツの好感度ダウンか……。

「ま、性格が悪くたっていいんだよ。これが雨音のためになるなら」

教科書とにらめっこする雨音を見ながら言う。

「それだけでなんとかなるのかなあ」

ナツが不安そうに言う。

「勉強なんてのは言い方が高尚すぎるんだよな。

記憶力だけでいくらでも高得点が取れるただのクイズゲームだ。

お前にだってできるぞ」

「兄貴みたいな記憶力があればねえ……」

ナツに言うと、苦笑いが返ってきた。

 

              //移動 通学路(夕)

「雨音、お前追試までゲーム禁止だ」

雨音は世界の終わりのような顔をしていた。

「なんだその顔……それくらい気合入ってるんじゃなかったのか」

「う……そ、そうだなっ追試までの間くらい余裕だっ! それくらいの覚悟はある」

自信満々に言うが泣き顔だ。

「ま、終わったら好きなだけゲームさせてやるよ」

「1週間かあ……」

肩を落とす雨音をしっかりフォローしておいた。

「じゃあ、追試終わったらゲーセン行こ! ゲームショップにも行こう!」

雨音がはしゃぐ。

「わかった、だが結果がダメなら褒美はなしだ」

「まかせろ、完璧にやってやるっ」

これだけ気合があれば大丈夫だろう。

「兄貴、結局なにも教えなかったけど大丈夫なの?」

「俺にできるのはこのあたりまでだろうしな……。

それに、たぶんこいつは俺が教えなくても十分なキャパシティがある」

「フウもそう思うよー」

俺の背中で寝ていたフウが口を開く。

「雨音はできる子。ゲームうまいし」

フウも俺と同じ答えらしいな。

「まあ俺は教えるのが面倒なだけだがな」

「兄貴……」

ナツは呆れていた。

 

              //一週間後 6日目

1週間雨音の面倒を見てきたが、やはり犬のようなやつだった。

              //小カット

「春賀ーっ! メシ行こっはらへった!」

              //小カット

「春賀っ新作のゲームがすげーんだ、知ってるかっ!」

              //小カット

「春賀っはるかっ宿題やってきたぞ、丸つけて!」

              //小カット

ことあるごとに俺のところに来るから休めない。

「おーい春賀、すまんここ教えてくれね」

おまけに以前目立ったせいでクラスメートがいまだに課題を聞きに来たりする。

俺の休み時間が削られていくのである。

まあ、その分授業中しっかり寝かせてもらっているがな。

「はーるかーっ」

「お、嫁さんが来たぞ、俺はあとで教えてもらうわ」

嫁いうな。

「あれ、なんか疲れてる?」

「大丈夫だ。メシ行くか」

「ん、行こ、夏樹は?」

「今日は別のやつと食うってよ。あいつは友達多いからな」

「そか、じゃあふたり……だけだ、な……」

ん、何か雨音の様子が。

「どうした。……顔が赤いぞ」

よく赤くなるやつだ。

「あ、あんたのせいだよっ」

人のせいにするなよ。

              //移動 食堂

「しかしお前ほんとよく食うな……」

雨音の目の前には5,6人前くらいの食事が置かれている。

「そうか? あんたが少なすぎるんだろ」

俺も毎食2人分くらい食べるから結構な量あると思うが。

「昔から父さんにたくさん食べろって言われてたからなあ」

「うちの親父も言ってたな……おかげでナツはお前と同じくらい食う」

もごもごと口を動かしながら、雨音がむすっとする。

「あんたはいっつも夏樹のことばっかりだな」

「お前がナツと似てるせいだ、仕方ない」

「仕方なくない! 夏樹がいないときくらい、あたしだけ見て――」

ぶわっと赤くなる雨音。

「あわわわやめろっ聞くな忘れろっ!」

「やっぱりかわいいなお前は」

「~~~~」

頭を抱えて顔を伏せてしまった。

「犬みたいで」

「うるさいっ!」

真っ赤な顔のまま雨音が吠える。

「ほら冷めるぞ、さっさと食べろ」

「あっうん」

雨音ワンコには、ひとつのことに気を向けるとほかのことを忘れるという特徴がある。

食堂のオバちゃん謹製の豪勢なランチに気を取られて、雨音の真っ赤な顔が一気に通常モードに切り替わった。

「今日は追試だろ、調子はどうだ」

「ん、ばっちりだ! あんたのおかげでな」

自信満々だがすごく怪しい。

「……持ってきて正解だったかな、一応これをやってみろ」

アキに言ってプリントアウトしてもらった模擬テストを渡す。

「おっけー! よーし」

昼休みはまだあるし、間に合うだろうな。

「できたぞ、春賀っ!」

ほどなくして雨音が声を上げる。……やけに早いな。

              //小カット

「お前は一週間何をしていたんだ……」

いかん、頭痛がしてきた……。

「これじゃさすがに赤点不可避だ」

採点した答案を雨音に渡すと、自信満々な顔をしていた雨音の顔が綺麗に青くなる。

「あわわわわわわわ」

混乱した雨音がなぜか答案用紙をビリビリに破り捨てる。

「うおーっおい何やってんだ!」

見直せば追試に有利になったというのに……。

「あわわわわわわわ」

主人を見失った飼い犬のようだ。

「とりあえず落ち着け……あんまり使いたくはなかったが、この手を使う」

そう言うと、雨音はやっと俺に向き直る。

「多少お前の性分に合わない方法かもしれないが、我慢しろ。

これもテストというゲームにおける正当な攻略法だ。

とりあえず、5限はサボりだ。移動するぞ」

移動しながら説明し、5限の時間内にみっちりと俺の指導を受けてから、雨音は追試に挑んだ。