主席R2
//翌日 3日目
//部室
「お願いします!」
テーブルを挟んで鏡花が頭を下げる。
「……なるほど、依頼内容はわかった」
昨日依頼を忘れたまま帰ってしまった鏡花だが、放課後部室にやってきて真っ赤な顔で依頼内容を話し始めたのである。
「まあ生徒会役員に選ばれるのは当然だが、断ってしまえばよかったんじゃないか」
学年主席の鏡花は生徒会役員に選抜されたらしいのだが、見ての通り6000人の生徒の上に立てるような性格ではない。
何とかして全生徒に認められるような人間になりたい、というのが彼女の依頼だ。
「こ、断るなんてできないですよう……」
そしてこういう性格のせいでさらに面倒に拍車が掛かっているらしい。
「それで具体的にはどうすりゃいいんだ」
依頼があまりにも抽象的すぎてどうしようもないな……。
「えと……あの……」
言葉に詰まる鏡花だが、なるほどこういうところから変えていく必要があるな。
しかし性格ってのはそうそう変えられるものではない。どうしたものか……。
「……お前ら何か案あるか」
久々の難題に困った俺は妹たちに丸投げすることにした。
とりあえず鏡花の丸っこい目がきらきらとゲームに熱い眼差しを送っていたのでゲームをさせながら……。
「めんどくさい依頼だねこれ」
フウの布団を引っペがしながらナツが言う。
しかし依頼は完遂が絶対だ。報酬を貰って依頼を受けたからには、依頼主が満足するまで、東京湾のゴミ掃除でも何でもするのが俺たちの仕事だ。
「フウも何かいいアイディアないか」
「んー、んー、じゃあー、みんなでゲームしよー」
だめだこいつまだ寝てやがる。
ふと鏡花を見てみると、さっき俺が起動してやった怒首領蜂を無心でプレイしていた。
こいつ、1日でまた成長してやがるな……。しかももうゲームに入り込んでこっちの声は聞こえていないようだ。
……ゲームか。
「? 何か思いついたの?」
「なんでだ」
「何かへんな顔してる。兄貴って表情に出るからすぐわかるんだよね」
「ハル兄、かっこいい顔だよー」
妹たちにはバレバレのようだ。しかしこれじゃ道理でこいつらとの麻雀では勝てないわけだ。
「ま、いい案が浮かんだのは本当だ。行くぞ」
ついでにアキも呼んでおくか。
「えっ、どこ行くの?」
「ゲーセンだよ。フウ、グッドアイディアだ」
「???」
//移動 ゲーセン
アキと合流して鏡花に紹介したあと、いつものゲーセンに到着した。
「それで、どうするの」
「鏡花の性格は根本から治すことはできないからな、別の方向から変えていくしかない」
俺が向かった先は「DDE」――本格的なダンスシミュレーションゲームの筐体だ。
「このゲームはとにかく人に見られる。上手ければなおさらな。
鏡花にはこのゲームをひたすらやりこんで、“人に見られる“ことに慣れてもらう」
「ダンエボなら私がお手本見せてあげる!」
この手のゲームが得意なナツが筐体に飛びついてプレイし始めると、少しずつ人だかりができ始める。
やはり運動神経は4人の中でダントツだからな……見ていて気持ちがいい。
「なんで僕たちは呼ばれたの」
アキが携帯端末をいじりながらつまらなそうに呟く。
「たまには外出て4人で遊ぶのも悪くないだろ。鏡花が慣れるまでは俺たちも暇だし」
それに引きこもったままにさせるとな、出番がないんだわ。
「それに素直に出てきたってことはまんざら嫌でもないんだろ」
「ふん、どーかな。僕は音ゲーやってるから」
アキはぷいっと踵を返して行ってしまった。
「……マジアカでもやるか」
残ったフウを連れて、すぐそばにあったクイズゲーム「クイズマ○ックアカデミー」の筐体に座る。
まあここなら鏡花の様子も見れるし――。
「あわわわわ」
――ものすごいヘタクソだ。
下手過ぎて逆にギャラリーが集まってきてるぞ。
「もっとこう! こう!」
ナツの教え方も雑だ。こいつ教える気あんのか。
見られてる緊張で鏡花もすでに涙目になってやがる。
仕方ない……。
「フウ、一緒にやってくれるか」
ナツが一緒にやると上手すぎでやりづらいだろうから、あまり体を動かしたがらないフウと一緒にやれば、少しは体も動くだろう。
……と思ったら。
「フウお前、意外と上手いのな……」
ことのほか普通にプレイして普通に平均以上のスコアを叩き出してしまったので、作戦断念。
「かんたんー」
まあフウは俺ほどじゃないが記憶力も良いし、普段動こうとしないだけで運動神経はわりとあるのかもしれないな。
「アキにやらせるか……」
そうしてアキを引っ張って半ば強引にやらせると、今度は同じようなヘタクソが2人並んで怪しげな踊りを披露することになった。
「兄さん、なんで僕がこんなこと! キツいんだけど!」
1曲しかやってないのに肩で息をするアキは汗だくになりながらも必死でやってくれている。
一応ゲーマーとしてのプライドをガソリンにして動いているようだ。
「アキーがんばれー応援してるよー」
フウの間抜けな声に押されてもう一曲やると、まあさすがゲーマー一家の血筋、さっきよりも上手くスコアを稼げている。
「はわっ、はわわわ」
一方の鏡花は、まあまったくとは言わないがなかなか成長の兆しが見えない。
というのも、やはり他人の目が気になるようだ。知らない人が視界に入ったりするたびに肩を縮こまらせて動きが鈍る。
「進歩しないね!」
ナツはなぜか嬉しそうだ。
「……」
さてどうしたものか……。