4人目R3
//翌日
ピピピピピピ……。
//アラーム音
「……ぁー」
無機質な電子音とともに迎える、いつも通りの気だるい朝。
日は登り始めたばかりで、窓の外の住宅街の奥から様子を見るように顔覗かせている。
最近寝覚めが悪いな……やはり頭痛の影響か。
ともあれ朝メシの準備をしないとな。ナツが帰ってくる前に用意してやらないと。
ベッドから降りてプライベート用の携帯デバイスを立ち上げると、メールが1件。
昨夜連絡を入れておいた親父からの返信だ。
『いつかお前もその件にたどり着くだろうとは思っていた。
お前が求める情報ではないかもしれないが、近々戻るから、その時にまとめて話す』
――親父、帰ってくるのか。
欠けた記憶の一部を取り戻す方法を考えていたのだが、真っ先に思い浮かんだのは親父だった。
おそらく身近で俺の幼少期を一番知っているであろう人物……。
記憶の件は、親父の情報次第になりそうだ。
//移動 廊下
1日の授業が終わり、行動を起こす前にひとまず部室に荷物を置くことにした。
相変わらず気持ちよさそうに寝ているフウを回収して部室に向かうと――。
「あれ、兄貴ドア開いてるよ」
鍵を開けられる奴は登録してある俺たち4人だけのはずだが……。
嫌な予感を感じつつ中を覗き込むと。
「おー、遅かったなーお前ら。待ちくたびれたぞ」
「おっ……おっ……!」
「親父!?」
「よ、久しぶり」
何で親父が……!
「久しぶり、じゃないよ、何でこんなとこにいるの!」
「あー? いいだろ、ちゃんと来賓として許可も取ってる。
春賀には言ってあっただろ、何だお前伝えてなかったのか、だらしねえやつだな」
学校に来るとわかっていれば伝えてただろうな……。
「今やってる企画が一段落ついたから久々に我が家の空気でも吸おうと思ってたんだがなー、どうせお前ら4人同じ高校だからっつってはしゃいでドタバタやってんだろ?
家に行っても入れないと推理してこっち来た」
こっち来たじゃねーよ鍵はどこやった。
「鍵なんか数え切れないくらい持ってっから探すのがめんどくせえんだよ。何百人の合鍵持ってると思ってんだ」
本当に何百人の合鍵持ってんだよ……。
「こっち来たのはわかるけどどうやって入ったの」
「こんなもんちょっと弄れば開くだろ。なんだお前こんなセキュリティ信用してんのか」
だったら家の扉もちょちょいと弄って開ければいいだろが。破天荒すぎて何も言えない。
世の中にはなんでもそつなくこなす人間がいる。親父はそんな優秀な人間のうちのひとりだった。
世の中の人と違うところは、親父には出世欲というものが微塵もないところだ。
自分が面白いと思うことを追い続けて、名を残すことは考えていない。
結果、知人の研究室を借りて謎の研究を繰り広げたり、東奔西走し謎のコミュニティを作り上げて帰ってきたり、正直息子の俺にも親父が何をしているのかまったくわからない。
ただ、親父はわりとまともな現実主義者であり、収入が途絶えることがない。
しかも一般的な家庭よりも断然多い収入を得ているので、俺たち4人は比較的裕福な暮らしを送っていられるのである。
「まーお前らの話を聞くのも面白そうだが、オレに聞きたいことがあるんだろ」
ナツが給湯室に引っ込んでお茶を用意し始めてから、親父がとうとう核心を語りだす。
「春賀、お前の一番最初の記憶はどこだ」
「……よく、わからない。その最初のあたりの記憶を思い出そうとすると、頭が痛くなる。
その辺りだけ景色がぼやけてて、前後が曖昧だ」
「なるほど。夏樹、お前がうちに来た日は覚えてるか」
「うん、小3のときだよね。親父とお母さんが離婚して、親父に連れられて今の家に来たんだっけ。
あの頃は子供だったからよくわからなかったけど……親父ほんと頭おかしいよね」
100万人いたら100万人がそう言うだろう。何せまともな職を持っているわけでもないのに、3人の女性と入籍して即離婚、ちゃっかり生まれた子供は引き取って自分の家に住まわせているのだ。
しかし100万人がおかしいと言って控えることも、100万1人目の人間は平然とやってのけてしまうのである。親父はまさにその選ばれし1人なのであった。
謎なのはその収入源である。4人の子供を養って有り余る財力を、一体何をどうやって得たのか……。
「でも、私はちゃんと感謝してるよ。親父がそうやってクズみたいなことしてくれたおかげで、私は兄貴と、アキとフウと家族になれたんだもん」
「褒められてる気がしねーんだが」
親父がひげを撫でながら呟く。
「秋人と冬花も似たような感じだったな。春賀の記憶にない部分を知るやつは、オレ以外にいない。
……さーて、ここからは少しデリケートな話になる。春賀、お前にだけ教える」
「えー、何で、私たちにも教えてよ」
「デリケートだっつってんだろ。……お前らが知るのは、春賀に伝えてからだ。おとなしく待ってな」
//移動 中庭
親父がこうやって簡単に来賓として校内に入れるのも、学園長と謎のコネクションを持っているらしく、結構な権力者として知られているかららしい。
更に校舎の設計者と親しい仲で、一部のデザインの設計も親父が噛んでいるとのこと。親父が迷わずに中庭に来れたのもそれが理由だ。
中庭には生徒がまばらに残っていたが、会話を聞かれたところで困る相手はいないだろう。
不審者まがいのツラの親父を遠巻きに警戒しながら会話を続ける生徒をよそに、空いていたテーブルにつく。
「これ以上もったいぶるのも何だしハッキリ言うわ。お前は事故に巻き込まれて記憶を失くしたらしい」
「事故って……そんなことまったく覚えてないぞ、本当なのか」
席に着くなりあっさりと告白する親父に面食らいながらもそう返すと、呆れたように親父が息を吐く。
「記憶を失くしてるんだから当たり前だろーが、何を言ってんだ」
「いや、そうじゃなくて……そもそも俺は最近まで記憶を失っていたこと自体知らなかったんだぞ」
「……順を追って説明することになるが、まずお前のそのずば抜けた記憶力のことからいこう。
お前のその力は記憶を失った反動で生まれたものだ。
これは医者から聞いたんだがな、そういう記憶能力の高い奴ってのは、欠けた記憶を強引に補完して、自分に都合のいいように書き換えるらしい」
……つまり俺の記憶力が失った記憶の矛盾を嫌って、適当な思い出で埋め合わせたってことか。
「まそんな感じだ。時間が経って『忘れたこと』自体忘れていたお前が再び事故以前の記憶に触れようとしたせいで、その強引な補完の綻びに気づいたってわけだ。
普通のやつだって小学生の記憶なんぞ必死こいて意識しなきゃ思い出せないようなもんだし、そもそも記憶のないお前には脳に負担がかかりすぎたんだろうな。頭痛の原因はそれだ」
親父の話は記憶のない俺にとっては信じがたいものではあるが、理屈は通っているような気はする。
しかし記憶を失ったことがわかっただけで、実際に重要な話は聞けていない。
「……聞きたかったのはこれだけじゃないってか」
親父は俺の顔色を見て全てを悟っていた。
「待ってろ――」
俺が口を開く前に、親父が制して目を光らせた。
親父のこの雰囲気は、俺たち4人がゲームをするときの気配に似ている。
――本気の目だ。
「――情報が少ないせいで推測混じりにはなるが、なるほど大体わかった」
フウの推理力は親父譲りのものだ。親父のIQはフウほど高くないにしろ、あらゆる情報から物事を把握する能力が高い。
俺が何かを説明する前に、散りばめられた情報で大体推理してしまったのだ。
「となるとひとつ面倒なことができちまったな……春賀、今日のところは終いだ、戻りな」
親父が席を立って背中を向ける。そのぎらついた目で何かを見ているようだが……。
「おい、親父、どういうことだよ」
「……お前らが今追ってる事件、オレが解いちまうのは些か不便がある。
今オレの口から情報を与えるわけにはいかなくなった」
どういうことだ……?
「まー自分らで何とかしろってこった。次に会うときには色々教えてやれると思う。
それともできないってか? お前らは俺の自慢の子供だと思ってたんだが」
「……わかったよ」
「物分りがいいな」
「俺にはフウのように推理力があるわけじゃないが、4人の中じゃ一番聞き分けはいいほうだと思ってるから」
「長男なんだからそれくらいの度量は当然なくちゃ困る。
オレがお前に家と家族を任せてるのはただの気まぐれじゃねーからな。
オレの血を一番強く継いでるお前になら任せられると思ってるからだ」
何か褒められたっぽいが。
「お前らになら解ける。何も複雑な事件じゃない。お前の指揮力次第だ、やってみろ」
「やってみろ、っつったって……親父この依頼の内容わかってるのか?」
「内容は知らないがどうせ転校生が訪ねてきたんだろ」
何でわかるんだよ……。
「……ま、ヒントだけくれてやるか。お前らから見えている部分に真実はない。
得られる情報の8割が偽物だと思え。
あとは、いつも言ってることだ。人生はゲームそのもの、お前らがどんな奇っ怪な事件に直面しても、謎解き気分で気楽にやればいい。じゃあな」
「じゃあな、って……おい親父どこ行くんだよ」
「野暮用ができたんだよ。まー気にすんな、お前らの都合が悪くなるようなことはしねーから」
親父は生徒から避けられながら去っていった。
一体何がなんだかわからない。親父はあの一瞬で何が解ったのだろうか。
そもそも親父は依頼内容は知らないと言っていた。依頼内容を知らないのに全て解ったというのはおかしな話だ。
しかし親父が全てを理解したうえで俺たちに託したということは、この事件は既に終わっている、ということか?
「……まったくわからん」
俺の頭じゃどうにも真相にたどり着くことは無理そうだ。
――俺の指揮力次第、か。
ひとまず戻って情報の整理だ。今の情報量で親父が解けたのなら、フウにも解けるかもしれない。
//移動 部室
「――という感じだ。どうだ、フウ」
俺の膝上で寝息を立てるフウに淡い期待を込めて声をかけるが、溶けかけたシェイクみたいにぐでーんとした眠り姫は起きなかった。
「まだ情報が足りないか……」
しかし親父に解けてフウに解けない、ということはないはずだ。推理力においてフウは親父よりも優れている。
……となると、親父は持っていて俺たちにない情報がまだあるということか?
「そういえばあの子今日は来ないのかな」
俺が思案しているとナツが呟く。ナツは考えることにおいてはチンパンジーよりも苦手な性格で、こういう依頼になるととことん的外れな発言をするのである。
「そういや毎日俺らを監視するみたいに来てたのに――」
//ドア開
乱暴にドアが開かれる音がして振り返ると、件の彼女が青ざめた顔で入ってきた。
「――お前、その傷……!」
二の腕に押し付けられたハンカチに鮮血が滲んでいる。
「ナツ、救急箱持ってこい! 止血と消毒!」
「ちょっと何なの、どうしたのこの傷!」
俺が叫ぶより早く飛び上がったナツが救急箱を引っぱり出して駆け寄る。
「また襲われたのか……!」
震える体を抱くようにして小さく頷く。
「場所はどこ」
いつの間にか眠りから覚めたフウが静かに問う。
「どこで襲われたのか聞いてるの。答えて」
「……同じ、場所」
「アキ、カメラは」
//コール音
顛末を見ていたであろうアキからのコールだ。
『近辺200m以内のカメラ53箇所分監視してるけど怪しい人影はないよ』
「監視エリアを500mまで伸ばせ! 1時間前からの録画ファイルもチェックしろ!」
「あ、兄貴、落ち着いて!」
『……いつもの兄さんらしくないよ。そんな量ぼく一人じゃさすがにモニタリングしきれない』
まったくその通りだ。怒りがこみ上げて自分で制御できない。このままじゃ3人にまともな指示も飛ばせないだろう。
「ハル兄、慌てても犯人は捕まらない」
「…くそッ」
俺の様子は3人から見ても異常だったようだ。荒く息を吐いて椅子に座り、ナツの応急処置が終わるのを待つ。
「そんなに深くない傷だから大丈夫だと思うけど、念のため病院には行ったほうがいいよ」
「襲われた時の状況を教えて」
狼狽える俺とは逆に、フウは冷徹なまでに落ち着いている。
「フウお前、落ち着いてないのにいきなりそんな――」
「落ち着いていないのはハル兄だけ。それに、2回目が起こってしまったら、もう話せないなんて言わせない」
フウはちゃんと周りが見えている。起こらないと高をくくっていた2回目の事件が起きてしまった――つまり、もう悠長に捜査を進めている状況ではなくなったということだ。
次にいつ新たな犠牲者が出るかわからない。
「……最初と同じ。後ろからいきなり襲われて」
「そう」
フウはもういいと言わんばかりに、彼女の言葉を遮った。
「ナツ姉、病院に連れて行ってあげて」
「わかった」
ナツと彼女が立ち去ったあと、フウは俺の膝の上に座って足を殴ってきた。
「フウのハル兄は、そんなにみっともない人じゃない」
「痛っ、フウ、やめっ」
「フウのハル兄は、いつもフウたちを正しい方向に導いてくれた」
足にフウの拳が刺さる。
「フウは、かっこ悪いハル兄なんて見たくない。ゲームしてるハル兄は、もっとかっこいい」
足を打つ拳が、優しく俺の手に触れる。
「もう少し、もう少しでぜんぶわかるから――ハル兄は、ちゃんとフウを導いて」
フウの背中が俺の胸に触れる。全てを委ねてくれている。
――お前になら任せられる。
親父の言葉が響く。
「……もう大丈夫だ、ごめんな、フウ」
「わかったらいいの。それより、さっきのハル兄は、へん」
それは俺自身でもおかしいと思っているところだ。
「俺のことはもういいよ、それより事件を紐解いていこう。フウ、まだバッテリーは足りるか」
いつフウがまたすやすやしてしまうかわからないし、今のうちに真相に近づいておきたい。
「大丈夫、ハル兄の膝で燃料補給したから」
そんな簡単に回復できるのかお前。
『兄さん、1時間前まで遡ってデータ調べたけど、ひとつ気になるところがあったよ』
どうやらさっきの通話から繋ぎっぱなしだったらしい。スピーカーからアキの声が響く。
『部室のディスプレイにデータ送るから見て』
ディスプレイに映像が表示される。今から20分ほど前の監視カメラの映像だ。場所はここから犯行現場に向かう時に通る道。
『ここだね』
なんか見覚えのあるシルエットが――。
「……親父か、これ?」
ディスプレイの中で親父が鋭く目線を左右に飛ばしている。何かを探っているようにも見えるが――。
『あのクソ野郎、一体何してるんだよ』
アキとフウは親父のことが嫌いだ。理由はもちろんあるが、それはまた別のところで語ろう。
「……アキ、あの人の動きを調べておいて」
『わかった』
フウは何か思い当たることがあるらしく、アキにそう言うだけで画面には目を向けなかった。
「アキ、さっきはすまなかったな」
『ふん、別に。よく考えたらこの程度のモニタリング余裕だよ。さっきは無理って言っちゃったけど』
「……ちなみにモニタリング範囲を500mに広げると監視カメラの数はいくつになる」
『487箇所になるね』
本当に申し訳ないことをした。
『……兄さんはぼくらの司令塔なんだからそんなこと気にしなくていいんだよ。
兄さんがどんなに無茶なこと言ったって、そもそもぼくにできないことなんてないんだから。
……あーもう、切るからさっさと事件解いて』
通話は切れてしまったが、あの感じ……めっちゃ照れてるな。
珍しく似合わないことばかり言ってるから恥ずかしくなったんだろう。
「よしフウ、情報を整理しよう。今どれくらいわかってるんだ?」
「もうほとんどわかってる」
ほとんど、か……。
事件の核心にはあと一歩足りないってところか。
「ただの通り魔ならもう終わってた。でも今回みたいな奇妙な事件には必ず人の意思が関わってくる。
何もかも暴くまで、終われない」
普通の犯罪ならフウの仕事は簡単だ。ねずみを追い込むみたいに容疑者を絞って、墓を残らず掘り返すみたいにして犯人を特定すればいい。
だが今回は異常なほど奇妙だ。何せ犠牲者が1人しかいないのに、事件は2度起きた。目撃者もカメラもその姿を捉えていない。
その上被害者は俺の失われた記憶に関わる人物だという話だ。状況の整理だけでお腹いっぱいだ。
「現場に行く」
//移動 廊下
フウが立ち上がってがんがん歩き出してしまったものだから、部室の施錠をして追いかける。
「現場に行って何かわかるのか?」
「たぶんほとんど意味はない」
じゃあ何で、と言おうとした俺を遮ってフウが繋げた。
「でも、どうしてもひとつだけ知りたいことがある。行って、それがわかるかどうかはわからないけど」
俺にはフウが何を見ているのかわからないが、俺たちのブレインが望むからには連れて行ってやらないと。
//移動 庭園前
件の現場に近づくにつれ、俺の頭痛が次第に酷くなっていった。
「ハル兄、顔色が悪い」
「……大丈夫だ」
「汗もすごい。また頭痛なの?」
「……」
実際、返事ができない程度にはきついが、痛みよりも困惑の方が大きい。
……例の彼女はナツが看ているはずだ。ということは、俺の記憶に関わるものがこの先にあるんじゃないか。
この先に行けば何かがわかる。俺の記憶の謎を解く鍵――。
//EF ブラックアウト
……あれ……視界が……。い、いかん、頭が……力が、入らない……。
「ハル兄……ハル兄? は、ハル兄、どうしたの、ハル兄……!」
フウの悲痛な叫び声が闇の中でこだまする。
どうした、フウ。お前がそんなに狼狽えるなんて、珍しいな。何か怖いことでもあったのか?
兄ちゃんが、守ってやらないと……。
//回想 リビング
――とーさん! とーさん!
……ああ、何だ、いつの間にか寝てたのか。
――ゲームしよ、とーさん!
何だ、俺を呼んでるのか、こいつ。5歳くらいかな……はは、俺に息子ができたらこんな顔なのかな。
――おれもとーさんみたいにつよくなりたい!
そうか、頑張れよ。俺も昔はそうやって親父の背中ばかり追ってたな。
――とーさん、昔があったの?
当然だろ、俺だって人間だ。お前みたいに子供のときもあったさ。
――なら、証明してみせてよ。
//移動 庭園
ここは?
――とーさんの記憶の中の場所。
へえ、綺麗な場所だな。
――春になったら、花で一面虹色になるんだ。
そうなのか、見てみたいな。
――おれ、ここで約束したんだ。春になったら見に来ようって。
いいじゃないか、誰と?
――それは、とーさんも知ってるよ。
俺はお前の友達なんか知らないぞ。
――忘れてるだけだよ。
……そんなの、何でお前が知ってるんだ?
――おれは、とーさんの記憶だから。
うーん、よくわからないが、いいか。
今は色のない景色だが、いずれ七色の絨毯を目にすることもできる。
そのときには隣に誰がいるんだろう。俺の記憶なら、教えてくれるかな。
「兄貴ー!」
「兄さーん」
「ハル兄ー」
おっと、あいつら俺の帰りが遅いから、心配して来てくれたのかな。
――とーさん、もう帰ろ。待ってるよ、4人とも。
そうだな、じゃあ帰るか。
――覚えてたら……覚えてたら、思い出して。おれのこと。おれが、とーさんの中にあること。
//EF ホワイトアウト