主席R3

//カット

 

「鏡花、ひとつアドバイスをしてやろう」

「ふえっ、は、はいっ!」

「このゲーム、やってみてどう思った」

「えっと、わ、私にはむずかしいかな、と」

「そうか、もうやめるか?」

「……いえ、もうちょっとやりたいです。これで学校の皆に認められるようになるなら……」

正直、こんなことをするだけじゃ誰からも認められる人にはなれないだろうけど。

「きょーか、きらきらしてない」

フウが近くの自販機で買ってきたアイスをもぐもぐしながら言う。

「アキも、ナツ姉も、きらきらしてるよ」

「きらきら……?」

フウ語が理解できない鏡花は首をかしげている。

「部室でゲームやってたときのお前は、もっと楽しそうだったぞ。

見てみろ、アキもヘタクソなのに楽しそうだろ。

あいつは根っからのゲーマーだからな。引きこもりだがゲームを前にしたら、人の目線なんか気にしない。

お前がダメな理由はそこだ」

鏡花は眉を八の字に歪めてまた涙目になっている。

「ゲームをするためにいちばん必要なものはなんだと思う?」

「えっ? ええと、体力とか」

それはほぼこのダンエボ限定の要素だろ。

「まあ悪くない答えだが、大事なのは誰かに勝とうっていう根性だ。楽しむのも大事だがな。

お前は周りを気にしすぎて、その勝とうっていう気持ちがまったく感じられない。どんなゲームでも、他人より優れた成績は何より大事だ」

「で、でも恥ずかしいですよう」

「他人なんて気にするなよ、知らないやつに笑われるより、俺たちに笑われる方が嫌だろ?

まずはどんどん上手くなってるアキに勝たないと、あいつ根が腐ってるから影でずっとバカにされるぞ」

そう言うと鏡花の顔色がいっそう悪くなって、涙の予感が増した。

「まずは打倒アキだ。いいか、それだけ考えろ。お前が今日中にアキに勝たなかったら、俺はこの依頼捨てるぞ」

「えええっ、そそそれは困りますっ!」

「だったら死ぬ気で戦ってこい。ゲーセンは戦場だ。建物に入ったら、周り全員敵だと思え。全員ぶち負かしてやるくらいの覚悟がなかったら、ここにいる資格はない」

少し厳しくしすぎかもしれないが、これくらいはしないと前には進めないだろう。

「……兄貴、またウソ教えちゃって」

「ああいうタイプは騙しやすくて、つい、な。今はあれがいちばんベストだと思っただけだ」

「ほんとにだいじなことはー、だーれも教えてくれないんだよー」

親父がそんなこと言ってたっけな……大事なことは大事だからこそだれも口にしないものだと。

「兄貴いっつも言ってるもんね、ゲームに必要なのは金と時間だって」

「ん、まあその通りなんだけどな。あいつにとって”ゲーム”はまだ夢の世界の存在だ。

あいつが夢ん中にいるときくらい、そんなリアルな答えは隠しておきたくてな」

「甘すぎなんじゃないのー?」

ナツは不満そうである。

「……まあ実を言うと、あいつが本気を出せるなら何でもよかったんだ。ハッタリだろうが詐欺だろうがな。

走らない馬もケツに火がつきゃ嫌でもゲートから飛び出すだろ。その火をどうやって付けるか悩んでただけだ」

「ふーん。で、兄貴はあのこのお尻を眺めながら何を思いついたのかな?」

冤罪である。

「実はゲームをする上でいちばん重要なパラメータは集中力なんだ。数値化するとしたら、俺たち4人の中ではアキがずば抜けて高い。

まああいつは引きこもって同じことばっかりやってるからな、集中力が研がれるのは当然っちゃ当然だが」

鏡花と入れ替わりでアキが休憩しにこちらに合流した。

「なに、僕の話?」

「ああ、お前の集中力がすげえって話だ」

「なにそれ、意味わかんない」

また興味なさそうにそっぽを向くが、得意げな顔になってるし軽く胸も張ってるし、無意識なんだろうけどほんとにおもしろいやつだ。

「それでな、こういう初見のゲームを攻略――というか、この場合は上達だな。上達するとき、その集中力でかなり大きな差が出るんだ。

現にアキは今までほとんど触れてこなかったダンエボをものすごいスピードで会得しつつある」

今度はつとめて顔に出さないようにしているようだが、こいつ照れてんな、わかりやすい。

「Zzzzz」

「じゃあ、集中力ない鏡花ちゃんはどうするの?」

長話に飽きてナツの膝まくらで寝てしまったフウを撫でながら言う。

「逆だよ」

「え?」

「集中力だけで言ったら、あいつはアキよりも――いや、下手したら、親父よりもあるかもしれない」

「……あんな間の抜けたやつがぼくより上なんて、うそでしょ」

「いくら兄貴でも、あんまり信じられないよ。ほんとに?」

「まあ、見てりゃわかるさ。俺の目は間違っちゃいない――」

「ひゃああ」

言ったそばからこけてやがる。

「――はずだ。……たぶん」

本当かなあ……。

「だいじょーぶだよー」

フウがニコニコしながらつぶやく。

「きょーかは、だいじょーぶ。とってもきらきらしてる。かっこいー」

まあ、俺の目よりもフウの目の方が間違いはないだろう。なにせひとの才能がそのままの意味で「見えて」いるからな。

「ま、しばらく俺らは別のところで遊んでるか」

「え、ほっといていいの?」

「大丈夫だよ、見てみろ。もう俺らのことなんか見えてない」

部室で見た完全な集中モードに入っているらしく、もはや周りなど見えていないようだ。

「お前らもダンエボだけじゃ飽きるだろ、ガンストでもするか」

ちょうど4人でできるゲーム、ガンス○ンガー・ストラトスの筐体に向かう。

このゲームは熱狂的なプレイヤーを産み、TVアニメ化までしたオンライン対戦ゲームだ。

「4人でやるのも久々だねー」

当時は60インチの大型プラズマディスプレイに赤外線センサー10基、合体可能な2丁のガンデバイス、さらに高性能システム基板のパワーで圧倒的グラフィックを実現した、超リッチでハイスペックなゲームだったという。

ブーム最盛期に学生だった親父も結構なヘビープレイヤーだったらしい。

「久々だなあ、エイム腐ってるだろうけどいい?」

「フウもやるー!」

久しぶりにやるか。

 

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「しまった」

「ちょっと兄貴ぼーっとしないで負けちゃう!敵見て!援護!」

「兄さんひとりそっち行ったよ捌いて!」

「ハル兄頭出さないで狙われてる」

いかん、一瞬意識を逸らしたせいで負けそうになってやがる。

「そいつ倒して勝ちだ、何秒耐えれば刺せる?」

「4秒!高火力武器で3人いっぺんに1発当てれば終わり!」

宣言通りぴったり4秒後には、3人の攻撃が相手キャラにヒットして勝利した。

「もー兄貴なにしてんの! 20連勝が止まるとこだったじゃん!」

実際今のはあと1秒遅かったら終わってた。

「すまんな、ちょっと忘れてたことを思い出して」

「晩ごはんの食材でも買い忘れたの」

「まあそれもある」

ナツとフウが形容しがたい顔で睨んでくる。

「いやな、鏡花ほっときっぱなしだと思って」

「「「あ」」」