主席R1

//主席ルート

//未調整多し。通し後推敲予定

//一週間後

「ふあ……暇だな」

新作の携帯ゲーム機を揺らしながら呟いてみるが、静けさが破られることはなかった。

この学校にはグラウンドが複数あり、サッカーコートやテニスコート、専用の球場まで備わっていて、窓の外では部活に励む生徒の汗が煌めいて見える。

暁色に染まる部室の中にはその爽やかな叫び声が春風とともに前髪を揺らす。ナツが激しく操作するスー○ァミのコントローラーが軋む音、フウの小さな寝息まで聞こえてくる。

「暇だねー、依頼も来ないし」

ディスプレイの中ではガ○ルが奇声を発しながら衝撃波を飛ばしまくっている。

うむ、何の変哲もない学生らしい昼下がりである。

「ファネッフー!」

しかし何度聞いてもファネッフーには聞こえない。スト2屈指の謎である。

というかお前その戦い方嫌われるぞ。

//ノック

「お、依頼か」

//ドア開

俺がドアを開けると、そこにいたのは小柄な女生徒だった。

「あ、あのすみません!」

「あ、お前昨日の」

入学式の前に校門で会った1年生だ。

「学年主席がこんなとこに何の用だ?」

「あううすみません……」

聞き方が悪かったのか、後ずさって申し訳なさそうにしている。

「いやすまん怒ってるわけじゃない、とりあえず入ってくれ」

「は、はい、すみません」

子リスみたいにビクビクしながら部室に入ってくる。

ナツは給湯室に引っ込んでお茶を用意して出てきた。

「ごめんね、うちの兄貴こわい顔で」

生まれつきだ。

「それで、なにか困り事でもあるのか?」

「は、はい……あの実は――」

「兄貴、その前にこの子誰なの? さっき知り合いみたいなこと言ってたよね」

「ああそうだったな、昨日ちょっと校門で会っただけなんだが」

そういや名前も聞いてなかったな……。

「俺は春賀、でこいつは妹の夏樹だ。そっちで寝てる毛虫が妹の冬花」

「わ、わたしは鏡花といいます」

なんだか緊張しているようで、中学1年の英語の教科書みたいな文が出てきた。

「あの、困ったことがあったらここにくるといいって先生に言われて」

基本的に教師には良く思われていないのだが、一部の人にはちゃんと恩を売ってあるので、こうして生徒に広まっていることがある。

まあこれはあちこちに人脈を作っているナツの尽力が強い。

「依頼か」

思わず口元を歪めると、鏡花の喉から引きつった音が聞こえた。

「すまんな、依頼になると変なスイッチが入るんだ」

「ワルそうな顔してるでしょ。ごめんねただでさえこわい顔なのに」

俺の顔の話をするな。

「お前は黙ってゲームでもしてろ」

ぷりぷり文句を言いながらスト2を再開するナツ。

「? なにやってるんですか?」

「スト2見るのは初めてか」

「え? えと、はい」

やはり同世代じゃスーファミなんて知らないのかもしれないな。

「やってみるか?」

もはや太古の遺産と呼ぶに等しい存在……その偉大なるオーパーツの片鱗を体験すれば、こいつもおおいに感動するに違いない。

「??? えっ、なんですかこれ」

ナツが軋ませるコントローラーを困惑して見つめている。

なんか違和感のある反応だが……まさか。

「お前もしかしてゲームやったことないのか」

「ゲーム……中学のとき部活で――」

本来の意味での英単語しか知識にないらしい。

まさかゲームを知らないやつがいるとは。

「間違いなく人生損してるね!」

そういう言い方は好きではないのだがまったくもって同意見である。

鏡花は初めて見るゲームに目を輝かせている。

「……初心者にいきなり格ゲーはハードルが高いな」

ゲームに触れたことがないやつに高難易度の作品を触らせるのはゲーマーとして恥である。

ここは初心者に優しい……かつ、短時間で良さが理解できるような、直感的な操作で楽しめるゲーム――スクロール系のシューティングなんかいいかもな。

「じゃあこれとかいいんじゃない、ほら」

そう言ってナツがプレイ○テーションにディスクをぶち込んで起動する。

「な、なんですかこの音……」

この起動音がトラウマになったプレイヤーも少なくはないだろう。かくいう俺もその内のひとりである。

ビュゥゥゥンボォォンと懐かしくもおどろおどろしい音を吐き出しながらPSのロゴが浮き出る。キ○タマが縮み上がりそうだ。

そのサウンドにトラウマを抉られながら、同じように青い顔で眉を八の字にしている鏡花の目の前に吐き出されたそのタイトルは――。

「ど、○首領蜂……!」

ナツが選んだゲームはあろうことか、怒○領蜂――縦スクロールシューティング史上最も鬼畜とされる首○蜂シリーズ2作目。

「くふふ、死ぬがよい

ナツがにやりと笑みをこぼすが、その顔は紛れもなく悪役のそれだった。俺もいつもこんな顔してんのか……。

止める間もなく鏡花にコントローラーを握らせるナツ。

これはアカン……朝青龍白鵬の試合にカブトムシが乱入してるようなものだ、土俵が違いすぎる。

俺の不安をよそに横綱(ザコ敵)の群れに突撃していくカブトムシ(自機)。

「お……? おお……!?」

ところが鏡花の繰る機体は横から上からやってくる無数の敵機と弾幕をひらりひらりとかわしている。

予想外の展開だ……こいつ未プレイじゃないのか?

「あの、この飛んでくる丸いのはかわしていいんですよね……?」

「ええ、はい大丈夫です……」

俺もナツも唖然としたままなぜか敬語で答えてしまう。

「ナツ、これ2週目で始めてるよな……?」

「見ればわかるでしょ、1週目こんなに弾幕厚くないよ……」

怒首領蜂は特定の条件でクリアすると超高難易度の2週目が解放される。そのデータを使用したプレイのはずだが、鏡花はミスすることなくステージ1をクリアしてしまった。

初見でクリアできるもんなのか……。

関心して見ていると案の定ステージ2で見事に爆死した。

「おもしろいですね、これ!」

弾幕シューティングを謳うこのゲーム、初心者ではノーミスは間違いなく不可能である。

こいつ天才か……!

「でもちょっと難しいです、これ、もう終わっちゃったんですよね?」

鏡花が落ち込みながら言う。

「お前ほんとにゲームやったことないのか」

「え? はい、えっと、たぶん」

首を傾げながら鏡花が言う。

「じょうずな人はもっとすごいんですよね! わたしもっとやりたいです!」

目を輝かせながらそんなことまで言い出す始末である。

期待の眼差しで俺を見つめてくるものだから、仕方なくコントローラーを握ってプレイし始めた。

久しぶりのプレイだが、クリアするだけならまあ楽だろう。

ラスボスの緋蜂を1ミスでクリアすると、隣でまじまじと見ていた鏡花が声を上げる。

「すごい、すごいです! わあ、春賀先輩、わたしにも教えてください!」

このはしゃぎよう、ヒーローを見つけた子供のようである。

しかしまわりにイカれたゲーマーばかりのこの人生、こうして慕われるのもなかなかいい気分だ。

「いいだろう、お前はなかなかセンスがあるみたいだからな、いろいろ教えてやる」

ぱああと目を輝かせる鏡花。不良児の俺の目には毒な光だ。

「他にはどんなゲームがあるんですか、あっなんですかこれこんなのもあるんですか」

彼女のステータスは好奇心に全振りされているらしい。

「それはあの有名なネズミ2人が冒険するマジカルアドベンチャーというゲームだが詳しくは話せない」

世界には伏字にしても隠しきれない危険なワードが存在するんだ、ハハッ。

詳しくはあとで個人用デバイスで調べてもらおう。

「こういう協力プレイができるゲームなら簡単だな」

と思ったので、K○NAMIの名シリーズ「がんばれゴ○モン きらきら道中」をチョイス。

もはや目を瞑ってもクリアできるほどやりこんだゲームだ。

 

//カット チャイム

「いかん、もうこんな時間か……」

夢中になっていたせいで完全下校時刻になってしまった。

「も、もうこんな時間! あわわ帰らないと」

眉を八の字にして跳ね上がった鏡花は、カバンをひったくるとぐるんと振り向いた。

「あのっありがとうございましたっ! 春賀先輩またいろいろ教えてくださいっ! 失礼します!」

ふかぶか~と頭を下げると、ばたばたと音を立てて走り去っていった。

「走るの遅いね!」

頭に青筋を浮かべたナツが廊下に顔を出して言う。なんでお前怒ってんの。

「怒ってないよ~? ほんの数時間放っておかれたくらいじゃ怒らないよ~私は!」

どうやらひとりで寂しかったようだ。

同じ家に猫が2匹いると、構ってもらえない方は家出してしまうという。猫も女も嫉妬深い生き物だ。

「いいもん私はフウといっしょに寝てるから! 兄貴なんかひとりでマ○オパーティでもしてれば!」

ジェラシーの塊がフウの布団にもそもそと潜り込んでいく。下校だっつの。

ナツが本気で怒っているので仕方なくニン○ンドー64にマ○オパーティ3をぶっ刺して起動してやった。

「マー○オパーティースリィーハッハッハァー!」

キャラクターたちが叫ぶタイトル画面に紛れて、スピーカーと真逆の方向から声が飛んできた。

「よし、帰るか」

満足した俺は電源を切って部室を出る準備をする。

「ちゃんと私とも遊んでよ!」

「いつも遊んでやってるだろ、客がいるときくらい我慢しろよ」

ぷりぷり怒って俺の腕をぶんぶん殴ってくるものだから右腕だけ腫れ上がりそうだ。

……あれ?

「そういやあいつ何しに来たんだ」

何か依頼があったようにも見えるがゲームやって帰っちまったな。

「まあ明日また来るだろうし帰るか」

「兄貴、明日は部活休みにしよ!」

しません。