ゲー廃雨音R1

              //雨音ルート

              //2日目

              //チャイム

「あ゛―、やっと授業終わりか。おいナツ、起きろ部室行くぞ」

「んー、んぐ、ふふ、だめだよ兄貴―へへー」

ヨダレまで出してやがる。だらしないな……。

「おいこらナツ、起きろっての」

「んが、あー兄貴おはよ、授業終わってるじゃん、部室いこ部室!」

いやだからさっきからそう言ってんだよ俺が。

「とりあえずその汚いヨダレを拭け……ったく」

袖で拭いてやる。

「えへー、ごめん」

少しは恥ずかしそうにしてくれるとありがたい。

やっとナツも起きたし、行くか――。

ドドドドドド――。

……なんだか廊下が騒がしい。

              //ドア開

              //モブの会話アリ

「春賀ーっ!」

乱暴にドアが開け放たれる。

教室に残っていた生徒たちがざわめきながら見る目線の先には、ゲーセン少女の雨音がいた。

「いたっ! 春賀っ見つけたぞ!」

ドカドカと教室に入ってくる雨音が俺を睨みながら叫ぶ。

「……何の用だ」

「あんたのせいであたしのプライドはズタボロだ!」

教室がざわめく。隣のクラスからも騒ぎを聞いて覗き込んでいるやつがいる。

「おい、何の話だ」

「あいつ何やらかしたんだ」

「夏樹ちゃんだけじゃ飽き足らず他の子に手を出したのかな」

……嫌な予感がする。

「昨日めちゃくちゃにされたせいで、あんたのことを考えて夜も眠れなかったんだ!」

おい、誤解を招くような言い方を……。

「あ、あたしのっ、は、初めてを奪ったんだ! 責任はとってもらうぞ!」

雨音が叫んだ瞬間、一瞬時が止まったような気がする。

「おいちょっと待て落ち着け――」

ざわめきが広がる。

「まさか食っちまったのかあいつ」

「おい、しかも無理やりみたいな言い方だったぞ」

「やだ、ケダモノじゃないサイテー!」

ちょっとやばいんじゃないですかこれ。

「おい待て誤解だ! ただのゲームの話だっての!」

「遊び感覚で……ひでえやつだ」

どうしろっつーんだ。

「おい雨音、何が目的なんだよさっさと言え!」

「あたしと、もういちど勝負しろ!」

 

              //移動 部室

やっとのことで誤解を解いた俺たちは部室に移動した。

「おい雨音、お前次こんなことしたらもう二度と勝負なんかしないからな」

「……」

自分の発言でどういう誤解を招いたか気づいた雨音は、さっきからずっとこの調子である。

「それで、勝負っつったって何するんだ」

「昨日、お前とは直接勝負してなかっただろ。

あんな偉そうなこと言ってたくせに!」

元気になった雨音が俺を指す。

「あたしは偉そうなやつが嫌いなんだ! 勝負しろ!」

やれやれ……。

「雨音、知らないかもしれないが、ここは便利部と言ってな」

「いや知ってる。凄い部屋だよなここ、あたしもここに住む!」

住んでねえよ俺も。

「便利部は生徒からのあらゆる依頼を解決する部だ。

依頼は一律1000円で受けることになってる」

「ボランティアみたいなものか」

金とってるからボランティアではない。

「で、それがどうかしたのか?」

どうやら頭の方はあまりよろしくないようだ。

「お前の勝負、依頼としてなら受けてやるってことだ」

「えーと……」

雨音は首を傾げている。

「依頼料を出さなきゃ俺は勝負を受けないって言ってるんだよ」

「……」

ようやく理解したらしく、雨音の顔がぱっと明るくなる。

「ああ、ああ! なるほど、そういうことか! ……1000円もすんの?」

しぶしぶ雨音が承諾する。

「よし、では勝負を受けよう」

「~~っ、またその顔……!」

雨音が真っ赤になる。

昨日のことを思い出して悔しがっているのか。

「さて、勝負の内容だが――そうだな」

少し思案するが、これと言って思いつくものがない。

「あたしはなんでもいい。ぜったいに勝ってやるからな!」

そうとう自信があるようだ。

「……雨音、お前家庭用はできるのか」

「うん、家ではずっとゲームやってるし」

「じゃあレトロゲーもいけるよな」

「対戦ゲームならだいたいできる!」

よし、それならこうするか。

「家庭用据え置き機――そうだな、俺の好みでスー○ァミから選んだゲームで勝負だ。

3本勝負で3種類のゲームを選んで、2本先取で勝ちだ。これでいいか」

「わかった」

雨音もにやりと笑う。

「勝負は連休をはさんで4日後の月曜日にしよう。

俺もいろいろと準備したいしな」

「無駄無駄、何やったってあたしが勝つに決まってる!」

どこからその自信が沸いて出てくるのか。

「……じゃあ、問題のソフト3本を選ぶか。そうだな――」

「待て」

俺が選ぼうとすると、雨音が口を挟む。

「……なんか嫌な予感がするんだよなあ。何か企んでるんじゃないか」

雨音がじっとりと俺を睨む。

「……当然だろ、勝負は始まる前に8割決まるんだよ。

俺が勝てるようにソフトを選ぶのは当然だ」

「だめだ! そんなのフェアじゃない!」

雨音がぷりぷり怒り出すものだから、俺は仕方なく妥協点を作ることにした。

「なら、そうだな……。

10本ほどソフトを選んでおいて、勝負直前に3本引き抜くってのはどうだ。

それなら公平な勝負になるだろ」

「よくわからないけどそれならいいぞ!」

勘はいいらしいが頭の方は本当にひどいな。

「なら、10本適当に選ぼう。対戦型なら、このあたりか――」

そうして10本を選び出したところで雨音はとりあえず満足したらしく、にこにこしながら帰っていった。

「やれやれ、面倒なことになった」

「兄貴、今度はちょっと厳しいんじゃないの?」

「どうかな。仕込みはしたが」

「えっ、それって――」

「ま、さっき言った『勝負前の8割』の、その準備が整った、ってとこかな」

「……へんなこと企んでるでしょ」

「何でだ」

「すごく悪い顔してる」

……顔に出ていたか。

「ま、自力でできるのはここまでだな。

あとは、お前ら次第ってとこだ」

「えっ、私?」

「ああ。今回は3人とも手伝ってもらうつもりだからな」

ナツが嬉しそうな顔をしている。

「久々に私も兄貴に協力できるんだね!」

ご機嫌になったナツは、にこにこしながらゲームを再開した。

 

              //移動 ハル部屋

「それで、私は何をすればいいの?」

夕食後にナツを呼び出しておいた。

「とりあえず、さっき選んだソフトの中に格ゲーが1本入ってる。

これの練習に付き合ってもらおうと思ってな」

持ってきたのはスーパース○リートファイターⅡ。第一次格ゲーブームにおいて主軸になったスト○ートファイターシリーズの第2作であり、最もヒットした作品――。

「格ゲーなら次世代機でやったほうが絶対にいいのに」

まあ言いたいことはわかる。

「ま、勝負のルール的に全て同じ機種で揃えないといけなかったしな。

とにかくやるぞ、ここが鬼門なんだ。

雨音はとくに格ゲーのセンスが強い」

「わかった。手は抜かなくていいんだよね?」

久々にレトロ格ゲーをプレイするナツは目が輝いている。

「当然だ。……というか、そもそも手抜く気ないだろ」

「私そんな器用じゃないしね」

その言葉通り、日付が変わるまでボコボコにされて一日が終わった。

 

              //4日目

              //移動 廊下

授業が終わって部室に来たら、ドアの前に雨音が座り込んでいた。

「……何してんだお前」

「あっ春賀、はやくっはやく開けろよっ!」

犬みたいなやつだな……餌も見せていないというのに。

「ずっと待ってたんだぞ、あんたが教室で騒ぐなって言うから」

野良犬かと思ったら忠犬だったようである。

「わかったわかった落ち着け。

というか俺は来るなとは言ってないんだから、うるさくしないなら教室に来るのはかまわん」

「ほんとか! じゃあ今度から教室に行く!」

尻尾が見えるようである。

「へへ、学校でもゲームができるなんて最高じゃねーか!」

やれやれ……こいつ成績の方は多分そうとう悪いんだろうな。

              //ドア開

              //移動 部室

「雨音、お前普段どんなゲームしてるんだ」

「んー、あたしはほとんどゲーセンだから。

家でもやってるけどさ、RPGとか」

「こういうパーティ系とかはやらないのか」

「……あたしはそういうの苦手なんだ。できない」

雨音が暗い顔をする。

これは、何か闇がありそうだな。

「……そうか。なら好きにしろ」

やたらと首を突っ込むのもよくないしな。

「兄貴相手してあげないの?」

「勝負前に手の内を晒すことになるしな。

ナツが相手してやれ、格ゲーならいい勝負になるだろ」

「そうだっ夏樹っつったなあんた! リベンジだ、勝負勝負っ!」

「おやおや~? あんな負け方したのに、まだ戦うのカナー?」

ナツが挑発すると、雨音は予想を裏切らずにしっかり逆上してくれている。

「あんなの偶然だっ! あたしが負けるはずないんだ、絶対! 次は負けない!」

ここの女どもは血の気が多い。

「ん……フウが来ないな、迎えに行くか」

教室で爆睡したままなんだろう。

ぎゃあぎゃあ騒いでいる2人を置いて、フウを迎えに行くことに。

 

              //ドア開

              //移動 廊下→教室

フウの教室を覗くと、まだ帰らずに残っていた数人の女生徒が俺に気づいた。

……俺を見ながらこそこそと話すのはやめてくれ。

あの一件で俺もこのクラスでは有名になってしまったようである。

「すまん、妹を見なかったか」

「えっあっ、冬花ちゃんですよねっ」

めちゃくちゃ怯えられてるようだ。少しショックだな……。

「あの、午後の授業では見てないです。午前はいたんですけど」

どこ行きやがったあいつ。

「私お昼に話したんですけど、暖かいから寝るって言ってました」

「……午前もどうせ寝てたんだろ」

苦笑が返ってきた。

「邪魔したな、気をつけて帰れよ」

女子たちに礼を言って教室を出る。

しかしこの怯えられよう……そんなに怖い顔してるのか、俺。

 

              //移動 中庭

              //芝ありの屋上でもいいかも

フウは中庭の芝生で爆睡していた。

「こいつこんなところで……」

中庭まだ生徒が残っていて視線が痛い。

まあ、今日は暖かくていい気候だから眠くなるのもわかるが……。

「Zzz」

ぐっすりだな。

強引に起こすのもかわいそうなので、フウのそばに座る。

「ん、んんん」

フウの鼻がひくひくと動いたと思ったら、抱きついてきた。

「ハル兄のー、におい……Zzz」

いつも思うが本当に寝てるのかこいつ。

……って、髪が芝がだらけじゃねーか。

「ったく」

身動きがとれないので頭の芝を取ってやることに。

しかし綺麗な髪だ、寝てばかりだからしっかり頭に栄養行ってんのかもしれないな。

芝を全て取って手櫛でくせを直してやっていると、気づけばフウが目を覚まして俺を見ていた。

「おはよーハル兄―」

「おいフウ、起きたなら離れてくれ」

「やだよー。もっとなでてー」

甘やかしすぎかな……。

「あとでな。部室行くぞ」

「えー、もっと寝たいよーハル兄もいっしょに」

「魅力的だが俺には人並みに恥じらいがあるからな。

お前みたいに人目も気にせずってのはできん」

フウがむすっとする。

「……ま、寝てたいならもう少し寝てろ。あとで迎えに来るから――」

「やっぱいい、ハル兄といっしょがいい」

「ん、そうか」

ナツと雨音も放置しっぱなしだし、さっさと戻らないとな。

 

              //移動 部室

              //ドア開

ナツと雨音の勝負はまだ続いていた。

「2勝差つけたほうが勝ちってルールにしたんだけど、未だに決まらないの」

たった今49勝49敗になったところらしい。

「切りがいいんだから次で決めろよ。俺のスー○ァミを独占するな」

そうして始まった運命の99戦目は――。

「はっはっは、あたしが負けるはずないんだ! 見たか!」

ドヤ顔の雨音が勝った。

「あー負けちゃったかー」

ナツは悔しそうだ。

……レトロに慣れていないといっても、ナツの格ゲーの実力は折り紙付きだ。

ここで雨音が勝つことは想定してなかった。

「さーて、次はアンタだ、リベンジ!」

フウを指差す。

「ハル兄、なにー?」

状況が掴めていないフウが俺に助けを求めてきた。

「勝負だと。この前のテト○スのときのリベンジらしいぞ」

「勝負……」

フウの雰囲気が変わる。

「今度はぷよ○よ通で勝負だ!」

ぷ○ぷよ通はシリーズの中でも最も人気の高い作品だ。

今でもゲーセンの片隅でアーケード版が稼働していて、スコアランクが頻繁に入れ替わっている。

「……あなたじゃ相手にならない」

覚醒したフウが呟く。

「やってみなきゃわからないだろ!」

意気込んでコントローラーを握った雨音だが、今度はナツのときと違って、接戦にすらならなかった。

本来このゲームは互いの実力が均衡していれば、ミスさえなければほぼ無限に続くようになっているのだが……。

やはりフウの実力は世界レベルだな。

さっきまで元気だった雨音が少し静かになっている。

「……もう、いい。帰るっ!」

              //ドア開

飛び出していってしまったな。

「ねえ兄貴……」

ナツも様子がおかしかったことを気にしているようだ。

「ま、あんまり気にするな。

本人が言わない以上、首を突っ込むべきじゃない――ん」

あいつ、鞄忘れてやがる。

仕方ない、探しに行くか……。

「アキ、聞いてるか、すまん雨音を追ってくれ」

アキにコールしながら言う。おそらく部屋で部室のモニタリングをしているだろう。

『中庭に出たところまでは見えたよ。

中庭にはカメラついてないから、あとは自分でなんとかして』

部屋で校内カメラの映像を除いたらしいアキは、電話に出るとすぐに教えてくれた。

「私も行くよ」

「いや、俺だけでいい。鞄渡すだけだしな」

              //ドア開

              //廊下→中庭