ゲー廃3

「さっきは悪かったなふたりとも」

ナツはふたりにお茶を出し、アキは早速パソコンを立ち上げ、フウはなぜか俺にへばりついて寝ている。

まあ、いつも通りだな。

お茶をひと啜りして立ち上がる。

「集まってもらって早々すまないが、俺はちょっと出てくる」

「んむむ、ハル兄すわってよー」

「おっと、すまんなフウ、でも依頼なんだ、行かなきゃ」

頭をなでてやれば離れて寝ると思ったのだがそのつもりはないらしい。

「じゃあ、じゃあー、フウも行く」

ニッコニコしながらそんなことを言うのだ。

「兄さん、依頼って何なの?」

「生徒会からの依頼でな、パソコンのウイルス駆除だ」

「それぼく向けの依頼じゃないか。ぼくも行く」

アキまで立ち上がってしまう。

「えー、みんな行くなら私も行く」

結局全員ついてくることになったか。しかたない。

「ナツ、戸締り確認してくれ」

「はーい」

        //移動 廊下

全員が部室から出てから部屋を出る。

この学校は創立5年、ハイテクノロジーの塊のような学校なので、校舎のドア鍵はすべて電子ロックで管理されている。

部室の鍵は掌紋認証で開閉できるようになっており、部活動申請の際に行われる掌紋登録によって自由に開錠することができる。

開閉記録は学内ネットワークによって管理され、管理者はいつ誰が鍵を開けたかがわかるようになっている。

        //SE 電子音

ドアの隣に設置された認証システムに手のひらをかざすと、電子音とともにドアがロックされる。

「さて……生徒会室は4階だな」

「Zzz」

おいこらフウ寝るな。

 

        //移動 生徒会室

「一世代前の初歩的なマルウェアだね、これ。

こんな単純な依頼だったなんて、やっぱり兄さんだけでよかったかも」

依頼はアキが持ってきたノートパソコンを生徒会のパソコンに接続して軽く解決した。

マルウェア?」

「パソコンに勝手に侵入して悪さしたりデータ読み取ったりするものです。

まあ詳しくなかったら知らないと思いますし、ウイルスっていうイメージでだいたい合ってます」

詳しい人に聞かれたら怒られそうな説明だがまあいいだろう。

「やはり生徒会にもパソコンに詳しい生徒を入れたいところだね。

どうだい秋人くん、生徒会に」

「対策ソフト入れたからもう大丈夫だと思う。兄さん、帰ろ」

桐子さんを軽くあしらって、さっさと帰ろうとするアキ。

「ま、そういうわけですので桐子さん。パソコン関連はまた依頼として受けますよ」

じゃ、と生徒会室を出ようとしたのだが。

「ま、まあ春賀くん、会長が戻るまでここでお茶でも飲んでいたらどうだい」

会長……苦手な人だからあまり会いたくはなかったのだが。

しかし今回は会長からの正式な依頼のようだし、一応挨拶しておくべきか。

「兄さん、ぼくは先に戻ってるからね」

「私もー。はやく戻ってきてね兄貴」

フウは……まあ寝てるからいいか。

「ところでこのウイルス、いつからこのパソコンに入ったんですか」

「私が確認したのは3日ほど前だったかな。

業務もまだそこまで忙しくなっていなかったから、始業まで電源を落として放置していたんだ」

「……」

「何か気になることでも?」

「いえ、大したことではないので。ところで――」

フウの寝ぐせを手櫛で直しながら、ため息。

「会長、盗み聞きは生徒の見本としてよろしくないのでは」

いつの間にか桐子さんのソファのうしろで気配が出ていたので、そう忠告すると。

「はっは、さすがだな四木春賀。顔も見ずに俺とわかるとは」

わざわざ気配消して部屋に入ってくるやつなんかあんたくらいしかいないんだよ、と言いたくなるところだったが……。

「フフ、この風見達郎! 人を欺き人の上に立つ!

いついかなる時も他人の予想と常識を覆す行動をするのが、人の上に立つ者の宿命!

たとえ名君四木春賀といえども、予測できない者でいなければ!」

 

がははと豪快に笑うこの人は、風見達郎。

この巨大な学園のすべてを牛耳る生徒会長だ。

見ての通りただの変態なのだが、彼が会長として学園を統治し始めてからというもの、学園の風紀は安定している。

歴史の浅い学校ゆえに、彼の就任以前は生徒会も体制を整えられずにいたという。

ただの変人に見えて、人の上に立つことを理解しているのである。

 

「会長、今回の依頼、無事に解決しましたので。これで失礼させていただきます」

「む、もう帰ってしまうのかな? あのマルウェアが誰の仕業か、気になったりしないかね」

「……依頼ならば調べますが。もう見当はついているでしょう」

「いいや! 確たる証拠がなければ犯人を決めることなどはできない!

先入観は人を鈍らせ行動を遅らせる。覚えておきたまえ!」

うるさいからもういいや……。

「ハル兄~うるさいよ~」

フウも起きてしまったので、逃げるようにして生徒会室から逃げる。

 

        //移動 廊下→部室

「さて、全員集まったことだし――」

「何かやることあんの?」

「いや、基本的にはゲームして依頼を待つだけだが」

「だよねー」

「ということで明日からこの部室を俺ら好みに改造する。

今日は始業式だしどうせ誰も来ないだろうから、解散だな」

「結局やることないならぼく来る必要あったの」

「フウは喜んでるぞ」

「アキもずっといっしょー」

「ちょっとやめてよフウ!」

フウが抱きつくと、アキは焦って抵抗した。

いや、まんざらでもなさそうだな。

「アキはこれからフウが学校に連れてくるの」

「今日みたいにむりやり引きずり出すのはやめてよね」

「お着替えもフウがさせてあげるの」

「ひとりでできるって何度も言ってるよね!」

「ごはんもフウがもがもが」

朝とまったく同じやりとりである。

「私も兄貴の身の回りのお世話ぜんぶしてあげたいなあ」

ならせめてメシくらいは作れるようにしていただきたい。

「さて、いい時間だしそろそろ行くか」

「行こ行こ! 兄貴とゲーセン行くの久々だよね」

「フウもアキと行くー」

「なんでぼくも行くことになってるの……まあたまにはいいか」

フウから解放されたと思ったら、今度はナツがへばりついてくる。

フウは相変わらずアキを逃すまいとがっちりホールドしているし、一体なんなんだ俺の妹たちは。フジツボの生まれ変わりか。

 

        //移動 廊下

        //効果音 電子音

ドアをロックして再び廊下に。

ゲーセンに向けて足を進めようとしたその時。

        //立ち絵 ヒロイン4

        //EF シェイク

「……っ!?」

なんだ……っ、急に頭痛が……!

「えっ、兄貴どうしたの、ちょっと!」

「いっ、いや何でもない……」

眼窩に鋭い針をぶち込まれたような強い痛みが襲う。

「あの……」

現れた1年生が声を発するが、その声が俺の頭を揺さぶるように響く。

綺麗な顔立ちをしているが、いまはその美しさに見とれている余裕はない。

「もしかして、俺たちに用か?」

ナツの肩を借りて立ち上がる。

俺の問いに1年生は無言で頷く。

「ごめんね、兄貴が調子悪いみたいだから、また明日来てくれないかな」

「……」

あまりおしゃべりではないらしい彼女は、また無言で頷いたあとに去っていった。

「兄貴、大丈夫? 保健室行こうか?」

「……いや、おさまった、大丈夫だ」

彼女が去ったあと、頭痛は嘘のように引いた。

「兄さん偏頭痛なんて持ってたっけ」

「いや、覚えはないが……」

「ハル兄なでなでー」

「ありがとな、フウ」

やれやれ、何が何だか釈然としないままだが……。

戦場に、赴くとするか。

 

        //移動 ゲーセン

久々だな、この騒がしい感じ……1年ぶりくらいか。

「兄貴、格ゲーやろうよ格ゲー!」

ナツは予定通り格ゲーゾーンにまっしぐらだ、

ついてきたアキとフウはおそらく2人して音ゲーだろうな。

「それで? 格ゲーっつっても何やるんだ」

「んーとね、これこれ」

ナツはちょうど店内に置いてあったパネルを指差す。

最近出た新作の機種で、わりと有名な会社の作品だ。

「あちゃー、やっぱり並んでるかぁ」

世間は今、格ゲーブームに包まれている。

普段格ゲーをやらない俺にはまるで興味のない話題ではあるのだが、40年越しの大ブームに企業とプレイヤーは目を血走らせている。

何せ40年越しの再来である。

第2格ゲーブームは肌を刺す不況の風を吹き飛ばすような熱風を巻き起こしている。

「これじゃ無理だな……ん?」

格ゲーは筐体を向かい合わせに置いて、プレイヤーはお互い向き合うように座ってプレイするわけだが、それに並ぶ列に偏りがある。

片側にだけやけに人だかりができているな。

「おいあいつすげえぞ、100連勝目だとよ」

「マジ? だってあれ女の子だろ? どうなってんだ」

「相手が下手なだけじゃねーの?」

なにやら観衆の話を聞くにすごいやつがいるらしい。いったいどんなやつなんだ。

        //一枚絵

「ちょっと兄貴、あの人すごいよ。プロかな」

俺と同じように画面を覗いたナツが言う。

「いや見てみろあの制服。**学園の生徒だぞ」

「あ、ほんとだ」

しかもリボン色は赤――同級生だな。

「へっへー、弱い弱い! そんなんじゃあたしには勝てないっての!

もっと手応えのあるやつ来いよなー……ん」

乱暴そうな娘が俺たちに気づく。

「アンタたちもやるの? これ」

なんか興味を持たれたらしい。まあ同じ学校の制服を着てるわけだし当然だろうけど。

「そっちの兄さん結構デキそうだね。やるの?」

「いいや、俺はあまり乗り気じゃない。そもそも未プレイだ」

「じゃあそっちの彼女さん? ふーん」

「か、彼女って……」

わざわざ照れなくていい。

「このおっさんたちぜんぜん手応えないからさあ、だれでもいいから強い人とやりたいんだよね。誰かいないかな」

まあ100連勝もすればそうなるわな。

「あ、次私だ、お手柔らかにね」

ウェイティングシートに名前を書いていたらしいナツが向かい側に座る。

「ねえ、あの子強いの?」

すでにあまりやる気はなさそうだ。

「まあ、お前が思っているよりは強いだろうな。それと――」

キャラ選択を終えて2人のキャラが対峙したのを見て。

「悪いが勝つのはナツだ」

 

勝負は一瞬だった。

ナツが生意気娘をフルゲージでボッコボコにして完封。

無傷のままのナツのキャラが画面内で得意げに拳を振り上げている。

「そ、そんな、なんだよこれ!」

歓声の中、彼女が叫ぶ。

「完封……ありえない」

無敗伝説を小娘に打ち砕かれたショックに震えている。

「まあ、ありえないことではないがな」

彼女が座っていた台にそのまま座る。

ナツがウェイティングシートに俺の名前まで書いていたらしく、次は俺の番だ。

初プレイだが、コマンドは頭に叩き込んだ。キャラの性能もだいたい把握した。

使用キャラはさっき彼女が使っていたのと同じ、パワー系のキャラ。

「アンタこのゲーム初めてなんだろ、無理に決まってる」

「お前、名前は?」

聞くと、彼女はきょとんとした顔をする。

「名前だよ、まだ聞いてなかったろ」

「あ、うん、雨音、だけど」

「雨音、お前はそもそもゲームをやる資格がない」

雨音はいきなりの俺の言葉に言葉を詰まらせている。

「ゲームってのはな、特に対人タイプのものは、油断なんてしちゃいけないんだ」

いかん、また悪人顔が出ているかもしれん。雨音が後ずさりしている。

「相手が強かろうが弱かろうが、既プレイだろうが初見だろうが関係ねえ。

常に戦場に身を晒す覚悟で挑むんだよ」

自然と口角が上がってしまった俺を見て、雨音は少しうつむいている。

「俺はナツには勝てないかもしれないが、負けるつもりもない。

どんな状況だろうが、ゲームってのは――」

戦場にこだまする鬨の声のように、歓声が湧き上がる。

「遊びじゃねえんだよ」

そして戦闘が始まった。

 

「いやー、負けた負けた。さすがに格ゲーじゃナツには勝てねえな」

「なに言ってんの、普通に負けそうだったよ私。

初プレイじゃなかったら負けてたかも」

と、雨音を見るとぷるぷると震えていた。

あんなに偉そうに語っておいて負けたからな……恥ずかしいことをした。

「……アンタ、なんていうの」

「?」

「名前だよ、名前! アンタたち誰!」

「あ、ああ」

そういえば聞くだけ聞いて名乗ってもいなかった。

「俺は春賀、こっちは夏樹。見ての通りお前と同じ2年だ」

「ぐぎぎ……」

何か歯車の軋むような音が。

「勝負しろ!」

「は?」

「勝負だ! しょーぶ! さっきのはまぐれだ! 高校生であたしにゲーセンで勝てるやつなんているわけない!」

ムキになってんな。

「どーするの、兄貴」

「いやまあ、ゲームでの勝負だったら別にかまわんが。何するんだ」

「全部!」

全部って……ここに置いてある筐体全部か。

「そうだな、まずは手始めにこれなんかどうだ!」

雨音が指さしたのは一昔前の縦スクロールシューティングゲーム

「まずはあたしがやる! 次にアンタがやってスコアの高いほうが勝ちだ! 見てな!」

そう言って雨音は意気揚々と席に着く。

 

雨音は軽快な手つきでかなりのハイスコアを叩き出した。

後ろで見ていたが、やはりこいつ、かなりの腕前だ。

「ふふん、どうだこのスコア! 並のプレイヤーじゃ到底敵わない……って、何だこの1位のスコア、凄いな」

得意げに胸を張る雨音だが、スコアは2位。1位のスコアが異常に高いことに驚いているようだ。

「ん……? ああ、これ俺だな」

「!?」

「そういえば兄貴去年やってたよね、これ」

「ああ、店内のレイアウトが変わってたから気がつかなかったが……まだ破られてなかったのかこのスコア」

「!?!?」

雨音が口をぱくぱくさせている。

「ど、どうやったらこんなイカれたスコア出せるんだよ! 絶対うそだ!」

「嘘じゃないっての……ほら見ろHALって書いてあるだろ」

「ぐぎぎ……」

また壊れた機械みたいな音が。

「次だ次! つぎ!」

「いてて」

俺の腕を強引に引っ張る雨音。

やれやれこの乱暴娘……。

 

「ふむ、音ゲーか」

雨音に連れてこられたのは音楽ゲームコーナー。

その中でも特に難易度が高いと言われている筐体の前に立つ。

「これならさすがに負けない!」

お前そのセリフ今までボロ負けしてましたって言ってるようなもんだぞ。

「あれ、兄さんも音ゲー? 珍しいね」

隣の筐体にはアキがいた。

「誰そいつ」

「いや、何か勝負を挑まれてな」

「……何それ」

まあ俺もよくわかってないんだが。

「え、援軍か……! 小賢しいやつ!」

雨音が変なことをつぶやいている。

「ちょうどいい、アキが相手してやってくれ」

「依頼じゃないんでしょ、無視すればいいのに。……まあ、ゲームでの勝負ならいいけど」

雨音と並んで筐体の前に立つアキ。

「それで、あんたはどっちなの?」

このゲームは1P側と2P側でボタン配置が逆になっているため、1P同士では同時にプレイできない。

基本的には1P側で始めた人は、不慣れな2P側ではプレイできないことが多い。

「あたしは2P側だけど。アンタは?」

「ならぼくは1P側でいいよ」

まあそれも一般的なプレイヤーに限った話であって、アキはその一般プレイヤーの枠に入らないのだが。

 

「まあ、最難関曲4曲フルコンボなら十分誇れるレベルだね」

4曲を終えて、雨音は最も難しいとされる4曲をノーミスでクリアした。

一方アキは同じくフルコンボ。しかもオールグレートというスコア上の最高得点をたたき出してのクリアだった。

「オールグレート……うそだ……誰も達成してないって聞いたのに……」

「公表してないんだもん、誰も知らないに決まってる」

とうとう膝をついてしまう雨音。

「ぐぎぎ……」

まだやる気のようだ。

「今日はなんか調子悪いのかな! べつのジャンルのゲームがいいな、うん! そうしよ!」

なんかひとりで叫んでいるが大丈夫か。

「ふわー」

ん、フウがいないと思っていたら、待機列のベンチで寝ていたらしい。

よくもまあこんなうるさい場所で寝れるな。

「コレだ!」

雨音が選んだのは、パズルゲームだった。

まあ説明しづらいが、正方形のブロックが4つ組み合わさったピースを上から落として埋めていく箱詰めパズルと言ったところか。

「テ○リスね」

おいせっかく俺が名前を出さずに説明したというのに。

「テト○ス……」

フウが隣で呟く。

次はフウの番だな。

「ふっふーん、こういうの苦手だと思ってたろ! あたしはパズルゲームがいちばん得意なんだ!」

ドヤ顔は勝ってからにしてくれ。

「……」

フウが喋らなくなったな、覚醒したか。

「次はアンタか、望むところだ!」

 

しかし今回の勝負も、またしても一瞬で終わってしまった。

フウは人間離れした手つきで見る見るうちにラインを消化していった。

対する雨音の画面は、そのフウの攻撃でお邪魔ブロックでガンガン埋もれ、為すすべもなく潰されていた。

「……ハル兄のほうがつよい」

フウのその一言で、雨音はもう泣きそうな顔をしていた。

「うぐぐ……」

まだやるのか。

「覚えてろ~~~!!!」

と思ったのだが、雨音は捨て台詞を吐いて去っていった。

「兄さん、あれ誰だったの」

「いや、知らん。雨音と言ったが」

「ハル兄……女の子の知り合いばっかり」

痛え!

「やめろフウ、腕をつねるなって痛え!」

「ほんと、兄貴は女の子たぶらかしてばっかりだよ、ね!」

痛え!

「おいナツ、ガチのサブミッションはやめてくれ折れる!」

いかん、うちの妹たちは女性関係に厳しい。

だがこの件に関しては俺は無罪であると主張したい。

というかなにもやってないんだから罪もクソもねえ、というか痛い!

「アキ、助けてくれ」

「先に帰ってるよ」

おまけに弟は無慈悲である。

自力でなんとかするしか……!

「ナツ、部室でも言ったが、俺はお前が大好きだ。だからわざわざ女の子をたぶらかす必要なんてないはずだろ」

ナツの極めが弱くなった。チャンスだ。

「いいかナツ、俺の右腕はお前を守るためにあるんだ、その右腕をお前に折られてしまったら、俺はどうやってお前を守ればいい」

嫌な汗が吹き出てきたので早口で言うと、気づけばナツのホールドは腕を包み込む優しいものになっていた。

「もー、兄貴ってばいつも外でそういうこと言うんだから……恥ずかしいよ!」

デレデレである。

とにかくこれで右腕の安全は保証された。

「フウ、機嫌直してくれ。

というかもうゲームは終わったんだ、落ち着いてくれ」

いまだに開眼したままのフウが俺の左肘の皮をつねりまくっている。

「フウ、俺はこれからもお前とたくさんゲームがしたい。

そのために雨音の相手していろいろ勉強してただけなんだ。

帰ったらたくさん可愛がってやるから、な、放してくれないか」

        //立ち絵変更

「……やだ。放さない」

しかしフウの攻撃は弱くなっている。

「ハル兄はフウたちだけのハル兄なの」

今度はフウが俺の腕を抱きしめてきた。

しかもまるで放してくれる素振りがないので、ふたりに両腕を占領されたまま帰路につくことになった。