ゲー廃桐子R1

              //桐子ルート

              //学校

              //ノック・ドア開

「邪魔するよ。

……って何だいこれは」

桐子さんが部室に来て早々驚愕している。

「きみたち……ここは学校だぞ、こんなにゲームを持ち込んで」

昨日俺が宣言したとおり、我らが便利部の部室はゲーム機で溢れるほどの状況にカスタマイズされていた。

「いくら春賀くんでもこれは見過ごせないね。

私は執行部の副会長だ、校則を破る生徒は罰しなければならない」

真面目な桐子さんだ。俺がいくら恩を売っていてもこう言われるだろう。

「校則にはゲームの持ち込みを禁止する項目はないはずですが」

「不要物の持ち込みを禁止する項目はあるだろう!」

「不要物に関する明記はされていないので。

俺はこれを必要なものであると認識していますが」

「どこが必要なんだい! しかもスー○ァミなんてレトロな――うむむ、M○THER2とはセンスがあるじゃないか……」

「なんだ、桐子さんもよくわかってるじゃないですか。

あとはほらこれとか」

「バ○ムートラグーン! 懐かしいな、小さい頃、お父様に勧められてよくやったよ。

ああ! 聖○伝説じゃないか! よくもまあこんなに古いゲームを集められたものだね!」

今やス○ファミのゲームは時代が古すぎてどこにも売っていないほどだ。

「親父が溜め込んでましてね。

親父も世代ではないのですが、レトロゲーム信者だったので」

「私のお父様もそんな感じだったよ!

大人になってもゲームばかりやっている人だったから、一緒になってやっていたんだ」

懐かしいなあ、と思いに浸る桐子さん。

「ではその聖剣○説を――」

「やるのかい!?」

「やります?」

「やる! ちなみに私は2より3のほうが好きだ!」

生き生きとしているな。

「私もやろーっと!」

ナツも加わった。

 

1時間後。

「何をやってるんだ私は!」

いきなり立ち上がる桐子さん。

「桐子さんボス戦です戦ってください」

「あ、ああすまない。

じゃなくて!」

ノリツッコミしながらも手元はしっかりとコントローラーを握っている。

しかし桐子さん、意外とゲームうまいな。

ちゃんとシステムを知っている人の動きをしている。

「流されてやってしまったけど、学校にゲームを持ち込むのは校則違反だ!」

「桐子さんはもう同罪ですよ、校内でそのゲームをしてしまってるわけですから」

「ぐ」

「まあいいじゃないですか。ゲームは手先を鍛えられるし、頭も使うから学生には有効なエンターテイメントですよ。

盛り場に行くより安価でしかも健康的だ」

「しかし――」

「そもそも成績さえ維持できていれば学業に影響はないと言い切れるはずですよ。

俺の成績、知ってますよね?」

「うむむ……」

変なポーズのまま唸る桐子さん。

しばらくして。

「よし、わかった! それならきみの成績で決めることにしよう。

来週の学力テストできみの偏差値が去年度末より5上がらなければこのゲームはすべて撤去する!」

「いいですよ」

「ふふふ、さすがのきみでもこれは少々――えっ」

「いいですよ、その程度でいいのなら」

「……じゃあ、約束だからな、な!」

どうも桐子さんは俺のこの余裕の表情に気圧されているらしい。

              //ドア開

桐子さんはなんだか逃げるようにして帰っていった。

「兄貴いいの? 偏差値5って、結構きついよね」

ナツが心配そうに覗き込んでくる。

「ん、まあ普通ならな」

「なーんかまた企んでるんだねその顔」

「企んでるというか企んだというか、な」

「?」

まあ、いずれわかることだ。

しかし――。

「来ないねー依頼」

「まあ始業2日目だししかたないな。

学内ネットにページも掲載したし、ナツの知り合いにも教えたりしてるんだろ?」

「うん、情報科と音楽科の友達にも教えたよ!」

ま、それならあとは待つだけだな。

「そもそも依頼なんて困ってるやつがいなきゃ来ないしな。

ないほうが平和でいい」

俺らは待ち時間でこうやってゲームできるし。

「あれ、そういえばフウは?」

「今日はアキと遊ぶんだと」

「仲良しだねー。

……私も」

「ん」

「今日は兄貴といっぱい遊んじゃおうかな!」

依頼も来ないし、それもいいか。

と思った矢先。

              //ドア開

「春賀くん!」

再び桐子さんがやってきた。

「春賀くん、夏樹くんとベタベタするのは家でやってくれ!」

そして俺とナツを引き剥がす。

「桐子さん何しに来たんですか今日は兄貴は私とゲームするんだから桐子さんは邪魔しないでください!」

「そうはいかないね! 私も春賀くんとゲームしたいんだよ!

きみだけにいい思いをさせるわけにはいかないんだよ!」

「桐子さんゲーム取り上げようとしたじゃないですか! 兄貴とゲームしちゃだめ!」

「関係ないだろう! いいじゃないかきみは家でも部室でも、クラスでも春賀くんと一緒で、ず、ずるい――」

「あーもう落ち着いてくださいふたりとも1年生が見てる」

開け放たれたドアから通りすがりの1年生が覗き込んでいる。

「う、ううう……」

桐子さんが真っ赤になってしおれてしまった。

生徒副会長で品行方正、まさに生徒の模範そのものという桐子さんだが、びっくりするぐらい表情豊かで、見ていて飽きない。

しかしその生徒副会長がこんな掃き溜めのような場所で騒ぎあっているのを見られるのはいろいろと問題がある。

「騒がしくてすまんな」

1年生たちにかるく声をかけてドアを閉める。

「それで、なにしに来たんですか桐子さん。

ナツと喧嘩しにきたってわけじゃないですよね」

「あ、ああそうだったな」

「がるるる」

ナツが桐子さんを睨んで牙を剥いているので、デコを叩いておとなしくさせておく。

「ぐるぐるぐる」

それを見た桐子さんも唸り始めた。仕方がないので桐子さんのデコもついでに叩いておく。

「そ、そうだ依頼だ。昨日の依頼のことだ」

「ウイルス駆除のことなら解決したのでは」

「それがね、今朝パソコンを起動したら直っていなかったんだ」

……どういうことだ。

「ナツ、アキに連絡してくれ」

「うん」

「……完全に直したはずなんですがね。

マルウェアはウイルスといっても風邪みたいなものではないので、再発なんてこともないはずですし」

「なにが原因なんだろうか」

すこし思案する。

「まあそうですね、見てみなければわからないところではありますが……。

アキが入れた対策ソフトの設定に不備があったって可能性もありますし、駆除しきれずにパソコンに残っていたという可能性も――」

『ないよ! ぼくがそんなミスするはずないだろ!』

ナツの電話から怒声が聞こえる。

「アキ、聞いてたのか」

『部屋からモニタリングしてるんだよ。

兄さんが部室に2人も連れ込んで侍らせてるのもちゃんと見てたからね、フウがめちゃくちゃ怒ってる』

アカン。

「と、とにかくアキ、早く来てくれ。この件は少し手こずりそうだ」

「? ただのウイルス駆除じゃないの?」

ナツが首をかしげる。

「すこし気になるところが多くてな。おそらくそれだけでは済まない。

とりあえず桐子さん、生徒会室に行きましょう。状況だけ把握しておきます」

「ああ、頼む」

 

              //移動 生徒会室

生徒会室でパソコンの状態を見ていると、まもなくアキとフウがやってきた。

「アキ、お前の入れた対策ソフトが破られてる」

「……フリーソフトだけどそんなに脆弱なファイアウォールじゃないはずだよ」

アキが俺を押しのけてパソコンの前に座る。

「たしかに破られてるね。しかもすでに結構な量のデータが吸い出されてる」

「ど、どういうことだ?」

「生徒会の機密データが外部に漏れた可能性があります」

桐子さんが青ざめる。

「どどどどどど、どどど」

落ち着いてください。

「どどどうしよう春賀くん! どうしよう春賀くん!」

目に見えて動揺している。

「桐子さん、落ち着いて。アキ、まずは対策を」

「もうした。学内ネット切ってぼくが組んだ対策ソフ入れたから。

……でもすこしおかしいんだよね」

アキの顔が曇る。

「侵入の形跡がないんだ」

クラックされたわけではないということか?

「現代の技術じゃクラックの証拠を完全に消すことはできないはず。だけど――」

アキの知らない技術が存在する可能性もあるということか。

負けず嫌いなアキのことだ、それを認めたくなくて口を噤んでしまった。

「桐子さん、情報科で一番成績のいい奴の情報出してください。

それからナツ、情報科で監査か議会に所属してるやつをリストアップしてくれ」

「わかった、聞いてくる!」

桐子さんはまだ動揺している。

「春賀く~ん……」

涙目である。

めちゃくちゃかわいいからこのまま見ていたい気分ではあるが。

「桐子さん、落ち着いてください。いまは流出したデータの拡散を防ぐことに専念しましょう。

俺が言ったこと、聞いてましたね?」

涙目のまま頷く桐子さん。

「では、なんて言ったか、復唱できますか?」

もはや子供をあやす気分だ。

情報科の、成績上位者の、ピックアップ」

「うん、大丈夫ですね。じゃあお願いします。頼りにしてますよ」

子供にしか見えなかったのでつい頭を撫でてしまう。

「は、春賀くん……」

「あ、すいません何かかわいかったからつい」

「~~~~」

桐子さんは真っ赤になって奥の部屋に逃げ出してしまった。

いかん、プライドに触ってしまったようだ。

桐子さんを相手にしていると年上だということを忘れそうになる。

さて後は……。

「アキ、家のパソコンからリアルタイムで生徒会のパソコンを監視することってできるか」

「いまその設定してるところだよ」

さすが俺の弟である。

「一応モニタリングはするけど、どうするの」

「そこなんだが……フウ、今回はお前がキーになりそうだぞ」

さっきから爆睡しているフウを揺さぶって起こす。

「むうー」

変な声を上げながら起き上がった。

「すまんな、悪いが起きてくれフウ、聞き込み行くぞ」

「んー、どこ行くのー?」

「とりあえず――」

立ち上がろうと思ったら、奥の扉が激しく開かれた。

「過去3年分の学年上位10名をリストアップした! 卒業生のデータも含まれているけど必要なかったかい!」

めちゃくちゃ興奮しているらしくやたらと声がうるさい。

「桐子さん落ち着いてください聞こえてます」

「あ、ああすまない……すこし人数が多くなってしまったけれどもう少し絞ったほうがいいかい」

「いえ、問題ないですよ。迅速な処理で助かりました」

「あ、ああこれくらいできて当然だよははは、副会長だからね!」

と、桐子さんはなんだか落ち着かなさそうにもじもじしている。

「そ、その春賀くん……そのだね、えっと」

「?」

いつもはきはきとしている桐子さんがおかしい。

「その、さっきのやつを……」

「??? あの桐子さん――」

俺が困り果てていると、アキが俺の手を掴んで桐子さんの頭に乗せた。

「~~~~」

桐子さんが震えだした。なんだそういうことか。

「女の人は頭にも性感帯があるっていう――」

「あああ秋人くん!」

桐子さんが腕をぶん回して喚く。

「フウも頭撫でられるの好きだもんな――ん?」

いつの間にか俺の左手がフウの頭の上に置かれていた。

「フウも」

お前いつの間に。

「まあそうだな、フウもちゃんと仕事できたらたくさんしてやろう」

それまではおあずけってことでな。

「兄さん、女性関係もしっかり整理しておかないとそのうち背中刺されるよ」

やかましい。

そこでふと気になって、アキの頭を撫でてみる。

「……何してんの」

「いや、あんまりアキの頭撫でてやったことないと思ってな」

「ぼくはペットじゃないよ! というか男だから!」

女っぽい顔してるけどな。

と言うとアキは怒るから言わないが。

「さっさと聞き込み行ってよ! ぼくはモニタリングしてるから!」

ぷりぷりと文句を言いながら跳ね除けられてしまった。

「じゃあ行くか、とりあえず監査と議会の本部だ」

「わ、私も行く!」

部屋を出ようとしたら桐子さんもついてきた。

 

              //移動 廊下

「よしフウ、犯人探しだが――」

「は、犯人って……」

桐子さんが不穏なワードに驚いて口を挟む。

「様々な可能性がありますが外部からの侵入の線は薄いでしょうね」

「濃厚なのは内部生徒の犯行の可能性」

フウが静かな口調で呟く。

「生徒会の会計データ、及び活動記録データの獲得が目的である可能性が高い。

そこだけに絞れば犯人の特定は簡単」

桐子さんはフウの覚醒状態を見たことがないので、かなり驚いている。

「生徒会の未公開データを手に入れて利益を得ることができる生徒。

監査委員、あるいは中央議会による犯行の線を洗う」

「ということです」

「は、春賀くん。この子……」

「あー、そういえば紹介してなかったっすね。

こいつは俺の妹の冬花です。まあ、こういう推理関係がめちゃくちゃ強くて」

かわいい妹が桐子さんにつきまとわれるのはやはり嫌なので、入試の成績やIQやらの話はとりあえず置いておく。

「ま、そういうことなんですけど、あくまで主犯が、という話になります」

まだ少し説明が足りていないようで、桐子さんは頭に?を浮かばせている。

「主犯が執行部と敵対するこの2勢力だと仮定しても、実行犯は依頼された第3者である可能性がある。

ファイアウォールをくぐって侵入の痕跡を消すほどの技術を持った関係者――」

「……なるほど、だから情報科の成績上位者を調べ上げたということか」

「もちろん向こうも糾弾を警戒して在校生から実行犯を選ばない可能性もありました」

「それなら、もう少し過去のデータも取ったほうがよかったのでは」

「いえ、データに関してはあれで十分です。

やはり後ろ暗いことをしているわけですから、信頼があって口の堅い人物を実行犯に選びたいと思うのが当然の心理でしょう」

「……・なるほど、卒業生は在校生の関係者である過去2年分のデータだけで十分だということか」

桐子さんが頷く。

「しかし当然ほかの可能性というのもあるわけだろう、そちらはどうするんだ」

「それは今考えても仕方のないこと」

フウが冷たく呟く。

「いま俺たちは探偵のようなことをしているわけですが」

とりあえずフォローを入れておくか。

「まあ推理や犯人探しなんてのもゲームみたいなものなんですよ」

「ゲーム……」

「ええ、現実なんてものは型に嵌めることができない現象が多いわけですが、事件というものは起こった時点で人の意思が介入しています。

そして人の意思というものはある程度型に嵌めることができるわけです」

説明はあまり得意ではないが……。

「そうなると、事件というものは強引にテンプレートに嵌めることができます。

そうやってテンプレを駆使して事件を少しずつ解いていくんです。

ナンプレとか、イラストロジックとか、やったことないですか?」

「んん、やったことはあるよ。でも私はあまり得意ではないな」

「ま、俺らが今やってることはそれと同じなんですよ。

ああいったゲームも、決まったテンプレートを駆使して最終系を目指すものなんですよね」

フウとナンプレ速解き勝負をしたことがあったが、俺が1問解いている間にフウは3問解いていたことがあった。

「今俺たちが当てはめているテンプレは、ただの”消去法”です。

思い浮かんだ”可能性”を潰していって、可能性がなくなるまでひたすら潰す。

途中で当たればラッキー、その程度の簡単な方法です。

イラストロジックでマスを塗りつぶすのと同じくらい簡単でしょう」

「うん、聞くだけなら簡単だけどね……」

「とりあえずは目の前に一番でかい可能性がありますし……おっと」

いつの間にかフウの覚醒が解けていた。

まあまだほとんどわかっていない状態だし寝ててくれても構わないがな。

「ありがとなフウ、眠いか」

「うん、ハル兄だっこしてー」

だっこは恥ずかしいから勘弁してくれ。

しかし眠そうだったのでおぶっていくことにした。

「冬花くんは寝てばかりだけれど」

桐子さんがフウの寝顔を覗き込みながら言う。

「こんな調子で推理なんてできるのかい」

まあ、もっともな質問である。

「フウは寝てる時の会話もぜんぶ聞こえてるんですよ」

「そ、そんなことが……」

「できるんですよねそれが。

なんでもフウは眠りがめちゃくちゃ浅い体質らしくて、寝ていても脳がちゃんと音を認識してるんですよ。

まあそのせいで四六時中寝てばっかなんですけど」

ま、こいつにはいつも世話になっているし、甘えんぼだから世話してやらないとかわいそうだ。

こうやっておぶって移動してやるくらいはしないとな。俺もそれくらいでしか役に立てないし。

そんな感じで、中央議会の本部室に到着した。