ゲー廃桐子R2

「じゃあ議長呼んでくるから、ちょっと待っててね」

応接室に通してくれた先輩はそう言って出て行った。

生徒会3部の本部室は、応接室やシャワー室なども完備された贅沢な部屋になっている。

「議長ってのはどんな人なんですか」

一流企業の社長室にあるみたいなソファーに腰かけて、いまだに爆睡しているフウを膝枕で寝かせる。

議会に顔の利く桐子さんがついてきてくれてよかった。簡単に議長とコンタクトがとれそうだ。

「そうだな、生徒からも人気のある可愛い人だよ」

桐子さんがそう言うならよほどの美人か。期待しておこう。

「久しぶりだな、キリ」

まもなく長身の男が入ってきた。

「久しぶり、元気だったかい」

「ふん、聞くまでもねえだろ。相変わらずボケてやがるな」

仲良さそうに会話する男子生徒と桐子さん。

口調から3年生だということはわかるが……。

「ああ、ハルくん、こいつが議長の壮治だ」

「ぎ、議長……」

この人議長かよ!

「あの桐子さん、さっき可愛い人って」

目つきが怖い。

「おいキリ誰だこのクソ失礼なガキは。可愛いって何だ」

「春賀くんとその妹の冬花くんだ」

そこでやっと議長は俺の膝で寝てるフウに気づいたらしい。

「目つきは悪いが可愛いやつなんだ。名字も姫川って可愛い」

「てめえキリそれ以上言ったら総務潰すぞ」

どうやら名字がコンプレックスらしい。

「……まあいい、さっさと用を済ませろ。

こっちもてめえら総務との戦準備で忙しいんだ」

というのはおそらく来週に控えている生徒会総選挙のことだろう。

前年度の活動報告と今年度の生徒会役員を選出するイベントのことだ。

「……では、僭越ながら俺からひとつ」

議長の鋭い目線が俺を捉える。

「中央議会のパソコンがクラックされたと聞きましてね」

「……!」

議長の目が見開かれる。

「てめえどこでそれを」

「俺とこいつは、まあいわゆる”便利部”の部員でして……まあいろんな方面から依頼が来るんですよ」

「ちっ、てめえらがあれの設立者だったってことか。

それでどこから聞いた」

「依頼主の情報は残念ながら開示できませんが、まあ俺たちが議会に害するつもりではないということだけ言っておきます」

「……で、なにが目的だ」

「話が早くて助かります。では、中央議会のパソコンの状態を見せていただきたい」

議長の顔が曇る。

「できるわけねえだろうが。

誰にも開示してない情報を持ってこんなとこまで乗り込んできてる時点で、てめえらはオレらにとって危険な存在だってことだろ」

「それ、どういう……」

「俺たちがクラッカーの内通者かもしれないってことですよ」

「てめえらがクラッカーそのものだという可能性だってある。

仮にてめえらが無関係の人間だとしても、総務と関係がある時点でデータを見せるわけにはいかねえんだよ」

……なるほど、こうなってしまうと桐子さんを連れてきたのは失敗だったかもしれない。

「……でしたら仕方がないですね、無理言ってすいません」

「まあてめえに心配されなくともクラックは防いだ。

おいキリ、お前こんなことのためにこいつ連れてきたのか」

「えっ、い、いや私は――」

「桐子さんは議長とのコンタクトを楽にするために俺が無理言ってついてきてもらったんです。

ところで、議長はこのクラック事件についてどうお考えですか」

俺の強引な話の切り替えに、議長は嫌そうに首を振る。

「てめえらが関係ないとしたら、十中八九総務か監査の仕業だろうが。

……まあ、キリがすっとぼけた顔してるから総務ではないなら――」

やはり議長も同じ結論であった。

「あるいは、新入生だな」

「……そうか、なるほど」

「???? えっえっ」

桐子さんだけが議長が言ったとおりすっとぼけた顔だ

「桐子さん、入試成績の上位者のピックアップを明日までにお願いします」

「あ、ああ。だが」

「今までパソコンに侵入がなかったということは、過去の在校生が犯人だという線は薄いということです。

もしそうなら過去に同様のトラブルがあったはずですから」

「……なるほど」

「多少アタマの出来はいいようだな、ハルとか言ったか」

まあハルでいいか。

              //効果音 チャイム

「そろそろ完全下校時刻だ、てめえらも帰れ」

どうやら議長は素行はめちゃくちゃいいらしい。目つき悪いんだがな。

「では、今日はこれで失礼します。

なにかトラブルがあったら、俺たちが依頼として引き受けますのでどうぞ」

「てめえらクソガキ共に頼るほど議会は弱くねえんだよ。さっさと帰れ」

              //移動 廊下

議会本部からつまみ出されてしまった。

「議長、あんないかつい人だったんですね」

フウをおぶりながら桐子さんと歩き出す。

「仲の良い人といるとかわいいやつなんだ、本当だぞ!」

嘘くさい。

「監査の委員長は壮治をすごく可愛がっていてね、いつもヒメがヒメがって――」

「キリてめえ黙って帰れ!」

議会室から罵声が飛んできた。地獄耳かよ。

 

              //移動 通学夜

「結局こんな時間まで……ぼくはもう二度と外出ないから」

アキはナツに付き合って部室でひたすらゲームしていたらしい。

「いいじゃんアキ、お姉ちゃんと久しぶりにたくさん遊べて嬉しかったでしょ?」

「姉さんはもうちょっと恥じらいを持って欲しいんだよね」

なんでもナツが久しぶりにアキとゲームできるからということで、必要以上に密着してプレイしていたらしい。

「昔と比べて、その、変わってるところとか、あるんだから」

「あー、お姉ちゃんのおっぱいが気になるのかなー?」

「そ、そんなこと言ってないだろ!」

ナツはすごく悪い顔をしている。

「けっこう大きくなったもんね、気になるなら……。

アキになら触らせてあげてもいいよ?」

ナツがアキに密着する。なんだか新鮮でおもしろいな。

「ナツ、ほどほどにしておけ。アキは引きこもり長いから女性関係には免疫がないんだ。

見てみろ茹でダコみたいになってるじゃないか」

ナツを引き剥がすが、不満そうな顔をしている。

「なーに兄貴妬いてるの? 大丈夫だよ兄貴にもちゃんと触らせてあげるから!」

ちゃんと、じゃねえよ。

「それに兄貴になら、もっと先のことも――」

「近親相姦はいろんな意味でNGだ」

俺の腕に抱きつくナツを適当にあしらう。

「もー、兄貴もっと私のこともかわいがってよーフウばっかりずるい!」

「むー、ナツ姉呼んだー?」

いまだに俺の背中で寝ていたフウがやっと起きたようだ。

「フウーたまにはそこ私に譲ってよー、私も兄貴の背中満喫したいよー」

「えへーやだよー。ハル兄の背中はフウ専用なの」

俺の背中は俺のものなんだが。

「フウ、起きたなら自分で歩いてくれ」

「Zzz」

起きてるだろお前。

狸寝入りもパリイされたフウは渋々俺の背中から降りる。

              //移動 自宅

「ところでアキ、あれからクラックの動きはあったか」

「監視すらなかったよ。やっぱりもう目的のデータ取り終えたんじゃないかな」

「もう次のクラックはないかもしれないな。

念のため監視は続けてくれ」

「私の方はリストアップ済んでるよ。

本当は個人情報だからあんまり公開できないって言われたけど、無理言って教えてきてもらっちゃった」

「ああ、助かるよ、ありがとう」

残るはフウだが。

「さすがにこの情報量じゃまだ目星はつかないよな」

「んー、気になるところは、あるよ」

「そうか、明日はそこを当たろう」

              //小カット

「3人とも今日はおつかれ。ありがとうな」

「兄貴もあちこち駆け回って疲れたんじゃないの?」

「ま、そうだな。とくに議長との会話がな」

「姫川先輩に会ったんだ、あの人けっこう生徒の間でも人気なんだよ」

桐子さんの言っていたことは本当だったか……。

「ま、今日はおつかれ。お風呂入れるよ」

ナツが気を効かせてくれたので疲れを癒すことにしよう。

今日はとくにやることもないだろうし、風呂入ってすぐに寝るか。

 

              //翌日

              //全ルート共通文章にするかも

春の匂いが部屋中に満ちる。

うむ、気持ちのいい朝だ、

「飯の準備をしておくか……」

              //移動 リビング

「ナツは……ランニングかな、帰ってくるまでに作っといてやらねーと」

アキはまあ起きてるだろうし、あとはフウを起こさないとな……。

朝食を作るのはさすがに慣れたが、朝のガチ寝フウを起こすのはいつも気が重い。

まあかわいい妹だ、しっかり起こしてやるけどな。

 

              //移動 教室

昼休みにざわつく食堂で、ナツと昼食をとっていたときのこと。

「春賀くん」

先日の格ゲーの話題で盛り上がっていた俺たちの前に桐子さんがやってきた。

「桐子さん、おつかれさまです」

「ご一緒していいかな」

「どうぞ」

俺の隣に座る桐子さん。

「……桐子さん、なーんか近くないですか?」

絡むな。

「そうかい? 普通の距離だと思うが」

2人の間に火花が散っているが、正直俺のいないところでやってほしい。

「そうだ春賀くん、昨日言われた成績上位者のリストを作ってきたんだ」

「さすがです、早いですね」

「ふふんそうだろう、もっと褒めてくれてもいいんだぞ」

この人は結構ナツに似て褒めると調子に乗りつつも伸びるタイプだな。

なんだか物欲しそうな顔をしていたので撫でておく。

最近の桐子さんは犬みたいなイメージでかわいらしい。

「兄貴~~~???」

ナツが激おこだ。

「最近桐子さんに甘いよね兄貴。怪しいなあ」

向かいに座っていたナツが俺の隣に座り直してくる。

「フウにも甘いし、私には優しくしてくれないのに!」

せまい。

「俺はお前にも優しくしているつもりなんだがな。

というか俺を挟むな視線が痛い」

周りの目も気になるしこの2人の散らす火花が怖い。

「……お前何やってんだ」

「あ、おつかれさまです。えーとヒメ先輩」

「てめえ一生口きけなくしてやろうか」

冗談が通じないタイプの人だった。

「異性交遊は禁止されてねえが少しは人目を気にしろ。

一度に2人はさすがにやりすぎだ」

とんでもない誤解である。

「今日はあのクセ毛はいねえのか」

フウのことだろうか。

「部室で寝てるみたいですね」

「あのガキ、学校を何だと思ってやがる。

……まあいい、ここ座るぞ」

えっ。

「兄貴姫川先輩ともうそんなに仲良くなったの……?」

「いや昨日ちょっと会話しただけだ」

ナツは議長と直接会うのは初めてらしい。鋭い眼光にビビっているようだ。

「そいつは」

「俺の妹です」

「は、はじめまして夏樹です!」

めちゃくちゃ緊張してるな。

まあこの目力だ、挙動不審になるのも仕方ない。

「じゃあ昨日の話しても問題ねえな」

もう昼食をとり終えたらしい議長が、食堂名物の淹れたてコーヒーを啜りながら切り出す。

「監査から情報を仕入れてきた。交換条件で教えてやる」

「……こちらは何を出せば?」

「議会のクラック情報をリークしたやつを教えろ」

依頼主の情報は開示できないと言ったはずなのだが……まあいいか。

監査長はやっかいな人だと聞いているしな、会わずに済むなら万歳だ。

「わかりました、応じましょう」

「春賀くん、春賀くん、悪い顔が出てるよ……」

どうも仕事のスイッチが入ると悪人ヅラが出てしまう。

「どうやら監査も食らっていたらしい。3日前だな、ちょうど議会のパソコンがクラックされた日だ。

すぐに気づいたらしいが結局被害なし、オレんとこと同じ状況だ」

やはり監査にも手が入っていたか。

……しかしどうも引っかかるな。

「兄貴、あのウイルス事件そんなにおおごとになってるの?」

ナツの言葉に議長の眉が歪む。

「……総務も食らってたってことか」

この状況では隠す必要もなさそうだ。

「じつはそうなんです。それで情報を集めるために議長のところに」

「……ち、オレはまんまと騙されたってわけか。

交換条件もクソもねえ、オレが一方的に情報くれてやっただけか」

「申し訳ないです。現状では俺たちと議長が争う必要はなさそうですね」

「とりあえずはな」

「あの、春賀くん?」

「?????」

両隣の2人はまるで理解できていないようである。

「昨日、俺が議長に何て切り出したか覚えてますか」

桐子さんが首を傾げる。

「中央議会のパソコンがクラックされた情報を手に入れた、と言っていたな。

あれは驚いたよ、いつそんな情報を手に入れたんだい」

「あれは嘘です」

「……えっ」

「カマかけられたってことだ。クソが、よくもまあ平然とあんなこと言えたもんだな」

「総務のパソコンがクラックされた時点で、最初は議会と監査を疑っていました。

ですが外部犯――無関係な生徒の可能性も十分にありましたので……」

「どちらの場合でもオレの反応を見ればわかるからな。仮に俺が総務に仕掛けた場合でも顔に出ると踏んだってことか」

「そういうことです」

桐子さんは唖然としていた。

「……詐欺師」

ナツは呆れていた。

「これで外部犯の線が濃厚になったわけですが――」

「お前ら総務の情報は信用できないがな」

「それは議長も監査も同じですよ。

俺は議長の言葉を信用しています」

「……」

なにか言いたげな議長は、結局言葉を飲み込んだ。

「信用しなければ始まらないですからね」

これで一応のところ、議会とは協定を結べたと言っていいだろう。

「それで犯人の捜索ですが――」

              //効果音 チャイム

「待て、続きは放課後だ。教室に戻れ、遅刻したら監査につき出すからな」

相変わらずのクソ真面目だ。

「では当面は実行犯を一般生徒に絞って情報を得ることにしましょう」

そうして会談は終了した。

 

              //移動 教室

「結構おおごとになっちゃったね。

なんか兄貴本物の探偵みたい」

「本物の探偵はもっとせせこましいことばっかりやってるだろ」

そもそもこの日本に探偵という職業はすでにないに等しい。

「じゃあ刑事とか?」

「そこまで立派なことはしてない」

警察に任せるほどの事件ではないしな。

「でも兄貴、なんでこんなことできるの?

普通犯人探しとかそんな簡単にできないよ」

「はっは、これもすべてアレのおかげだ」

「アレ?」

「ポー○ピア連続殺人事件」

「ゲーム……」

偉大なるファ○コン初のアドベンチャーゲーム……50年経った今となってはすでにプレミア級の存在だ。

「ゲームやったって犯人見つかるわけないでしょ」

「いや、そうでもないんだなこれが。親父が言っただろ。

『人生は8割がゲームだ。そしてゲームは遊びじゃない。ゲームから人生を学べ』ってな」

「はあ、それでそのゲームから学んだこと、活かせてるの?」

「どうだろうな。知らず知らずのうちに活かしているんじゃないか?」

「適当だなあ……」

今日はナツに呆れられてばかりな気がする。

「ま、推理は俺の専門じゃないからな。

俺の仕事は集めた情報をフウに伝えるだけだ」

「それと詐欺もね」

ほっとけ。