ゲー廃桐子R3

            //名前変更(会長) 達郎→寅泰

            //移動 部室

めずらしく起きていたフウに昼休みの会話を伝えておいた。

「まだ少し情報が足りないな」

「ん。もう少し」

どうやらフウは事件の真相を掴みかけているらしい。

「じゃあ、聞き込みだな。どこに行く?」

「せいとかいしつー」

よし、じゃ行くか。

 

              //移動 廊下→生徒会

              //ノック ドア開

「失礼します」

生徒会室に入ると、何人かの役員が走り回っていた。

「やあ春賀くん、すまないね慌ただしくて」

役員選挙に向けて準備を進めているようで、桐子さんも少し忙しそうだ。

「時間を置いてまた来たほうがいいですかね」

「いや、かまわないよ。

仕事を前倒しにしているだけだから、むしろ予定よりも早く準備は進んでいるんだ」

人手が足りないとは言っていたが、やはり優秀な人材が多いようだ。

「それで、わざわざここまで来てくれたってことは何か用があるんだろう」

「昼休みに新入生の情報を受け取り忘れてしまったので」

「ああ、そういえばまだ渡していなかったね」

桐子さんはファイルからコピー用紙を取り出した。

「全教科合計点での成績上位者のリストだよ。

各教科ごとの上位者のリストも作ってきたけど……ところで春賀くん」

桐子さんは不気味な顔をしていた。

「その、いちばん上にある名前はなんなのかな」

「げ」

しまった、失念していた……そこには堂々とフウの名前が書いてある。

「そこの冬花くんはあの主席の子を抑えてトップでの入学らしいじゃないか。

きみが知らなかったなんてことはないだろう」

「いや、これはそのー……うん、シラナカッタナア、ははは」

誤魔化しきれていない。

そんな俺の様子に桐子さんはため息を吐いた。

「まあいい、きみたちがどうしても生徒会に入る意思はないということだろう。

私もそこまで物分りは悪くないつもりだ」

しかし桐子さんは、逆に諦めてくれたらしい。

リストに目を落とすと、備考として出身地や親の会社まで書いてあった。

「在学生の上位者のリスト、もう一度見せて」

いつの間にか開眼していたフウが呟く。

桐子さんから書類を受け取ってフウは一息つく。

「……会長はどこ」

「フウ、わかったのか」

「うん、ぜんぶ終わり」

「本当かい!」

桐子さんが立ち上がる。

「俺を呼んだか! 四木兄妹!」

奥の部屋から会長が現れた。

「おいお前らこのクソ忙しい時に邪魔しにきたのか」

議長までいたとは。まあ彼も一応関係者だ、いてくれても問題ないだろう。

「例の事件、解決したみたいです」

視線が集まる。

「ところで議長はなんでここに」

「ヤスに用事があっただけだ。このクソ野郎ほっとくと仕事しねえからな。

そんなことはどうでもいい。さっさと犯人を教えろ、締め上げて――」

「犯人はあなた」

フウが指さしたのは、会長だった。

全員が間抜けな顔で息を呑む中、会長が口を開く。

「フ、俺が犯人……一体何を」

「最初の違和感はウイルス騒動の時。

生徒会にはパソコンに詳しい人がいないということだったのに、あなたは桐子と違って”マルウェア”という発言をした。

ハル兄が言ったように大抵の人はマルウェアなんて言葉を知らない」

桐子さんは、会長が『パソコンに近づかないほど苦手』だと言っていた。

「あなたは苦手だからパソコンを遠ざけていたわけじゃなくて、詳しいことが露呈するのを避けていた。

少しでも触って挙動の端に慣れた動作が出てしまうことを恐れた」

「じゃ、じゃあ会長が生徒会のパソコンにウイルスを?」

「会長はアキの入れたウイルス対策ソフトを消しただけ。

ウイルスなんて初めからなかった」

だからアキが言ったように侵入の形跡がなかったということか。

そうして偽の”ウイルス騒動”が生まれた。

「ちょっと待て話が読めねえ。

ウイルスって何だ、オレらみたいにクラックされたんじゃねえのか」

「それが2つ目の違和感」

議長の発言にフウが返す。

「中央議会と監査委員にはクラック――侵入を試みて失敗した形跡があるのに、生徒会だけは対策ソフトが破られた。

犯人がクラッカーほどの技術を持っていないのが理由。

ここで生徒会執行部の犯行の線が濃くなった」

議長は、生徒会以外の2部のパソコンには侵入されずに阻止したという話をしていた。

「ヤスお前……何が目的で」

「最初の目的はおそらく狂言による他2部への牽制。

仕立て上げたウイルス騒動で桐子やほかの役員が2部を疑うのを狙っていた。

疑念が膨らめば役員は2部に乗り込んでパソコンを確認しようとする」

「そうしてオレたちのパソコンから情報を引き出そうと考えたってことか」

フウは頷く。しかしそれは失敗に終わった。

「フウたちがこの騒動を比較的早い段階で解決して、外部の線が濃いという仮説を立ててしまったせいで、役員たちの疑念が薄くなった。

あなたは目的を切り替えて一般生徒の犯行に仕立てようとした。

フウたちが議会や監査と組んで架空の犯人を捜索している間に、混乱に乗じて情報を引き出すつもりで」

俺たちがほとんど単独で、しかも予想外に早く事件を解決してしまったせいで、それも失敗に終わる。

「そんなに複雑な事件でもなかった。はじめからフウとハル兄は会長を疑っていたし、リストを見て確信した」

そう言って皆に見せたのはさっきの名簿だ。

「会長の親はIT企業の社長なの。

その息子が、パソコンに詳しくないはずがない」

会長はにやりとする。

「お見事。しかし俺がやったという証拠がない以上、負けを認めるわけにはいかない」

すでに犯人であることを宣言してはいるが、そんなことを言う。

「証拠なんていらない。警察も裁判も必要ない事件だから、そんなものあっても無駄。

言ってしまえば、この状況全てが証拠」

きっぱりと言うフウはすでに仕事を終えた顔だ。

「フ.それもその通りだ。それで俺をどうするつもりだ」

「別に。あとは私には関係ない。

ハル兄に聞いて」

それだけ言ってフウは寝てしまった。

「えー……まあ判断を任されましたが、被害がない以上俺たちにはなんとも言えません。

この場にいる中でいちばん被害を被った議長に任せます」

議長に視線が集まる。

「くだらねえことしやがって」

静かに言う議長の顔はいたって普通だった。

「オレもキリも忙しいんだよ、余計なことしてる暇あったら仕事しろ。

それから俺にはいらねえから詫びるならそこでアホ面してるキリに言え」

見てみると、議長が言ったように桐子さんがいまだに呆然としている。

「か、会長が、なんで――」

「騒がせてすまなかったな桐子。この四木兄妹が言った通り、犯人はこの俺だ。

しかしまさかここまで早いとは思っていなかった。流石だ」

「何言ってるんですか、はじめから成功するなんて思ってなかったでしょう。

むしろ失敗すると考えたうえで実行したんじゃないですか」

「春賀くん、なんで――」

「よくぞ見破ったな、四木春賀。

俺には技術がなさすぎた。

失敗しても2部を攪乱して優位に立てる。成功すれば万歳。

失敗して成功、成功して大成功という計画だ」

「桐子さんが予想以上に俺たちを信頼していたせいで、想定外のケースになったということですね」

「ああ。しかし四季春賀よ、どうして貴様まで俺が怪しいと思ったのだ。

俺の挙動はそんなに怪しかったか」

「まあ、そうですね。どこが、とかではないんですけど。

たぶんフウもそうなんですけど、探偵っていうのは最終的に”勘”5割で推理するんですよ。

思い返してみていちばん矛盾した発言をしていた人が怪しい、っていうだけです。

真面目に”推理”したフウと違って、俺の”推測”はただのゲームです」

言ってしまえば、まだ外部犯である可能性もないとは言い切れない状況だった。

こうして踏み切ったのも半分は勘だ。フウも言ったように証拠すらない。

「ま、あとはゲームですよ」

「ゲーム?」

「ポー○ピア連続殺人事件っていうゲームに関する有名なセリフがありましてね」

「あっ! 兄貴まさか――」

「ふふふ、そのまさかだ。このゲームは主人公である刑事の部下が犯人でして」

「春賀くん……まさかそんな理由で」

「そのネタバレがネット上で話題になったんですよ。

犯人はヤス』ってな」

ナツどころか全員に呆れられていた。

 

              //翌日 4日目

              //部室

そんなこんなで今回のウイルス騒動は幕を閉じた。

桐子さんと議長は会長の犯行に関して咎めるつもりはないらしい。

まあ当然といえば当然だ。多少混乱が起きただけで被害はほとんどないし。

といっても形式上何かしなければ下に示しが付かないということで。桐子さんが出した結論はというと。

「放っておくと仕事をしないのでパソコンの管理を任せることにした。

もともと誰もやりたがらなかったし、他の役員にも示しがつくだろう」

被害はそこまで広がらなかったし、むしろ生徒会からしたらパソコンに強い人が露呈してラッキーな事件だったのではないだろうか。

              //ドア開

「四木兄妹、先日は世話になったな!」

騒がしい人が現れた。

「会長!パソコンの設定はどうしたんだい!」

「無論すでに済ませた!

そちらの四木秋人と比べれば俺もただの一般人程度だが、並み以上の知識はあるつもりだ。

これからは生徒会のシステムに関しては任せてくれて構わん!」

それは心強いことだがもう少し静かに喋れないのだろうか。

「む? ムムム、良いではないかこの部屋!

貴様なんというセンス、ここまで太古のゲームを揃えるとは!」

フウが黙々とプレイしていたぷよ○よ通に乱入し出す会長。

「ふはは四木冬花、貴様なかなかやる!手合わせ願おう!」

「ちょ、会長、フウに挑むのはやめたほうが――」

止めようとして唖然とする。

なんだこの人、フウと対等に戦ってやがる……。

開始早々二人が枠限界まで積み上げ、ほぼ同時に連鎖開始。

カラフルな玉が綺麗に弾けて消えていく。

「ふふふ、よいぞこのひりつく勝負! 戦とはこうでなければ!

さあ四木冬花、貴様の力はその程度か! 見せてみろ貴様の熱を!」

よくそこまで喚きながらプレイできるな。

「いかん間違えた」

おい!

「しかし四木兄妹、この部屋会長としては見過ごすことはできんな」

会長が画面を睨みながら言う。

「面白いからかまわんがな!」

いいのかよ。

まあその辺に関しては桐子さんとの勝負で決着がついたし。

会長の実力もなかなかのものではあるが、やはりフウには叶わないようだ。

会長の連敗記録が3桁を超えたあたりで、桐子さんが首根っこを掴んで帰っていってしまった。

 

              //翌日 5日目

              //移動 家

めずらしくアキがリビングに来て朝食をとっていた。

「企画してたゲームのプログラムが終わったからね。

フウがうるさいからここで食べるよ」

フウはアキにべったりだった。

「兄貴―牛乳なくなったよー」

しまった買い忘れていたか。

ナツは牛乳を切らすとめちゃくちゃ怒る。

今日の帰りに買って帰ろう。

……というか毎日1リットル飲んでるお前がおかしいんだ。

だからそんな豊満なボディになってしまったのか。お兄ちゃんは嬉しいぞ。