4人目R2

//移動 部室

件の依頼人が部室にやってくると、当然のように頭痛がやってきた。

通り魔に襲われたときの状況を詳しく話してくれるということなので、3人に任せて給湯室に引っ込むことにした。

頭痛薬を飲んで体調がよくなってから戻ると、すでに仲良くなったらしいナツが楽しそうに話していた。

「おかえりー兄貴、大丈夫?」

「ああ、すまんな」

「……あなた、何か持病でもあるの?」

彼女が首を傾げながら聞いてくる。

「最初も、そんな感じで具合悪そうにしてた」

……この反応――。

「いや、ちょっとコンタクトがずれたから直してただけだ。最初に会った時もコンタクトが落ちて探してたところだったんだ。

ところで依頼の話はどうなったんだ」

ナツが何か言いたそうな目をしていたが、察してくれるようにあえて目を向けずに椅子に座る。

「襲われたのは最初にここに来た日の下校中だって。後ろからいきなり切り付けられて犯人の顔もわからないらしいよ」

「襲われた場所は?」

「……フラワーパーク」 //※自宅と反対側の学区、小学校が近くにある

「学校はさんで反対側のとこか」

「私たちがあんまり行かないとこだね」

とくに用事もないしな。……それにあそこは何か近寄りがたい雰囲気がある。

「……しかし情報不足だな。アキ」

「もうやってるよ。学内サーバでスレ立てて情報集めてる」

「じゃあ、私はそのあたりに住んでる子に聞き込みしてくるね、っと、兄貴ちょっときて」

//ドア開 移動 廊下

「何であんな嘘ついたの?」

コンタクトなんて付けてないからな……。

「ちょっと引っかかるところがあっただけだ。あの様子だとあいつは俺の頭痛には関わってなさそうだ。……俺への悪意を隠してるわけじゃなければな」

ナツの小声に合わせて小さく囁く。

「彼女が意図的に俺に影響を与えているのでなければ、頭痛のことは隠しておいたほうがいい。

少なくとも、隠した場合のメリットの方が今は重要なように見える」

「うーん、よくわからないけど……とりあえず私たちも隠すようにしたほうがいいんだね」

「お前は何も言わずに普通にしてろ……」

ナツは俺とは正反対で嘘が下手くそなのである。

「あいつ……何かところどころ引っかかる部分があるんだよな。

違和感を感じたからとっさに誤魔化したんだが……ひとまず何かわかるまで隠していよう」

「オッケー、わかった!」

//ドア開 移動 部室

「……あなたは何もしないの?」

部室に戻ると、二人が行動を始めたのを見た彼女が呟く。

「今のところはな。……というか、いつもこいつらが働くから俺はすることがなくなる」

結果俺は一番上なこともあって指示を出すだけの木偶の棒になってしまうわけだが。

「ま、俺が出なきゃいけないと感じた時は動くけどな。今回は現場に行くことがあったら危険だから俺が行く」

「何で! 兄貴一人じゃ危ないでしょ! 私も行く!」

ナツお前聞き込み行ったんじゃなかったのかよ。

「兄さん一人に任せたら何もわからないまま犬死にしそうだしぼくも行くからね」

「フウもいくー」

「……とまあ、こういう風になるから滅多なことがなきゃ俺は働けないってわけだ」

「……信用されてないんじゃない」

何か辛辣な言葉ばかり出てくるな。

「どうせ暇だしゲームでもやるか」

「フウもーやるー」

フウもしばらくは出番がないだろうしな。

「たまにはぼくもやろうかな。スレは立てたけどこの時間は動きが少ないから」

「4人いるし、久々にス○ブラでもやるか」

大乱闘ス○ッシュブラザーズ――言わずと知れたニ○テンドーの名作である。

「スマ○ラは初代に限る。以降の作品はぬるぬるしすぎてゲーム性がなさすぎるからな」

しかしこのコントローラーも久々に握ったな……相変わらずいやらしさを感じるフォルムだ。

「手始めにゴリラで遊んでやる……お前ら覚悟はいいな」

にやりと口元を歪めると二人が嫌そうな顔をするが、彼女はふんと鼻を鳴らすだけで微塵も動じない。

相当な自信があるとみた。やはりなかなかの手練れだな。

「というかわざわざ俺たちに付き合わなくてもいいんだぞ。最後まで近くにべったり付き添ってなくてもちゃんと依頼は完遂するから、不安かもしれないが――」

「別に、私は不安だからここにいるわけじゃない」

じゃあ何で――と言いたいところではあったが、どうにも彼女には何も聞けない雰囲気があって口に出せない。

まあいいか。……ところで開幕早々俺のド○キーコングが緑の剣士にボッコボコにされているアカン。

「狡い戦い方しやがる……」

「ゲームの勝負に卑怯も汚いもない」

試合が始まった瞬間に雰囲気が一変した彼女が小さく呟く。

「……面白い」

久々に血が躍る。厳しい闘いになりそうだ。

 

//カット

「二人とも強すぎるんだけど」

しばらく勝負を続けているとアキが根を上げてコントローラーを投げ出した。

フウも半分寝てやがる……勝負のレベルが高すぎてついてこれていないようだ。

「トップ率は丁度半々か。……タイマンでケリつけるか」

俺の常勝を妨げている彼女は心なしかオーラを纏っているように見える。

「しかしただ闘うだけじゃつまらないな。勝ったほうが負けた方に1つ命令ができるっていうのはどうだ」

「……いいの?」

何がだ。

「あなたじゃわたしには勝てない」

「……結果が全てだ。語るのは終わってからにしな」

俺が挑発すると、珍しく彼女はむすっとした顔になる。

「よし、じゃあ同意したってことでいいな。いくぞ」

 

//カット

熱い闘いを制し、額に浮かんだ汗を拭いながらコントローラーを置く。

「……何をしたの」

実力は互角。苦戦を強いられたが、事前に打った布石のおかげで勝ちをもぎ取ることができた。

「俺が勝負を持ち掛けた時点で勝敗は決まっていたんだよ。

あれだけ4人で試合をやって、俺とお前のトップ率がまったく同じなのに違和感を感じなかったのか?」

「……試合結果を操作したっていうの?」

「ああ。実は初めからお前にタイマンの勝負を持ち掛けるつもりだった。4人で戦っても本気の勝負はできないからな。

お前は数試合で俺の動きを把握しきったつもりでいただろう。

試合結果を左右するついでに闘い方をあえてお前に読み取られやすいように動いておいた。偽の立ち回りを刷り込ませたってことだ。

まあ、それでも最後の試合で俺の動きに合わせて立ち回ったお前には感服せざるを得ない。だが――」

「――負けは、負け。言い訳する気はない」

潔いな。

「……それで、あなたはどんな卑猥なことを命令するの」

こいつ俺を何だと思っていやがる。

「ゲームが強い女は好きだからな、そういうのも魅力的――そんな顔するな、冗談だ。

考えておくよ。必要な場面で使わせてもらう」

「兄さん、ひと段落ついたならちょっと来てよ」

「何か情報が入ったのか」

アキのノートPCを覗き込むと、武骨なデザインの掲示板が表示されていた。

「情報は集まったか」

「……今のところ有益な情報はない、けど――」

アキが怪訝な顔で言葉を切る。

「……ここか」

 

88: 《名前》 2035/04/00( ) 16:42:13:78 id:YUw1w2hU0.net //日付・名前はあとで

そういやあそこ昔なんかの博覧会の会場だったんだよな

名残で今たまにイベント会場に使われたりしてるんだけど客が集まらないらしい

使い道もないし維持費もすげえから市が潰すっていう発表してたんだけどまだ残ってたんだな

 

89: 《名前》 2035/04/00( ) 16:43:32:12 id:eSELQgqO0.net

 

>>88

それ聞いたことあるけどデマだろ

今度あそこで何かやるって話聞いたし、オケ部が今年あそこのホールで演るっつってたぞ

何か客呼ぶイベント始めるんじゃね

 

93: 《名前》 2035/04/00( ) 16:51:01:80 id:SerOvEzL0.net

 

帰るときあの中通るけどマジ過疎ってるぞ

フラワーパークとか言っても今はもう手入れされてなくてほとんど花なんか咲いてねーし

うちの学校のやつが帰りに通るくらいであとはよくわからんババアしかいない

つか>>1はなんであんなとこの情報求めてんの?

 

「関係ありそうだが……」

「なんとも言えないね。……それよりもう結構レス溜まってるのに通り魔の情報は出てこないね」

たしかに、これだけレスが溜まっていてひとつも目撃情報が出ないというのはおかしな話だ。

「ハル兄ーフウはー? おしごとー」

ナツもアキもせっせこ働いているのを見て我慢できなくなったらしい。

「んーそうだな、犯人は誰だと思う?」

フウが抱っこをせびるので膝の上に乗っけてやりながら聞いてみる。

「Zzz」

まあ、覚醒してない時点でまだ見当もついていないことはわかりきっていたが。

「……その子に聞いても無駄に見えるけれど」

フウの様子に不安を感じたらしい彼女が呟く。

「そうか? 俺には頼もしく見えるが」

俺の言葉に呆れたように息を吐く。

「何だ、フウがただのねぼすけだとでも思ってるのか」

「そう思わない人がいたら教えて欲しい」

こいつ口数増えたな……。

「フウ、何のゲームがしたい?」

「んーぷ○ぷよー! フィーバー!」

フウの大好物である。

「ぷよ○よは得意か?」

PS2のコントローラーを渡すと、彼女は訝しみながらも勝負モードに切り替えている。

「負けたことはない程度」

自信ありってことな。

「ぷ○ぷよ~♪ ぷよ○よ~♪ ぷぷぷぷ~よ~♪」

超マニアックな「ぷよ○よのうた」を口ずさみながら左右にぶるんぶるん揺れるフウ。落ちそうで怖いからやめてくれ。

そんなふわふわしたフウも、キャラ選択を終えゲームが始まるととうとう覚醒する。

いつもどおり、ほんわかした空気からいきなり氷点下レベルのオーラを纏い出す。恐ろしいやつだ。

「1回でも勝てたらさっきの勝負なしにしてやるよ」

察した彼女は生唾を飲み込んでにやりと口元を歪める。すげえ悪そうな顔してるぞ。

//カット

結局、20戦を完封して勝ったフウは満足気な顔で眠りに落ちたのである。

「Zzz」

「ま、これでわかっただろ」

「この子は誰なの」

人の話聞いてんのかこいつ。

「……前も言ったろ、こいつは俺の妹の冬花」

「そっちのパソコンの子も妹なの」

「ぼくは男だよ! 制服見ればわかるだろ!」

まあそこは仕方ないと思う。

「そっちは秋人。正直俺もこいつの性別には疑問を感じることがままあるからこの際妹でもいい」

「よくないよ!」

アキがぎゃあぎゃあうるさいが紛らわしく生まれたお前が悪い。諦めろ。

「……」

何かまた不満げな顔してるぞこのお嬢様。

//ドア開

「たっだいまー!」

「お、早かったな。どうだった」

ナツが下品にドアをぶち開けて帰ってきた。

「うんにゃ、もうなんにもなかった。あっちに住んでる子探して聞いてみたけどなーんにもなかったよ」

……いよいよわからなくなってきたな。

「それとこの学校の子、あの中通って帰る人が多いらしいんだよね。結構敷地が広いから迂回すると時間かかるっぽくて、みんな真ん中突っ切るんだってさ」

「結構人通りはあるってことか……これは実際に行ってみるのがいいか」

「犯人が出ても私が撃退するから大丈夫だしね!」

「アホ、お前らを危険なとこに連れてく気はない。

もっと情報を集めてからだ。できれば犯人の目星をつけてからが望ましいな」

「フウ次第ってことだね!」

「でもこの調子じゃまだ先は長そうだね。次の被害者が出たらどうするの」

「……おそらくだが、その可能性は低い」

「その根拠は」

「通り魔のような快楽主義系の犯罪者は連続して犯行を重ねる場合が多い――というのを聞いたことがある。

現段階で被害が出ていない時点で、ひとまず被害が増えることはないだろう、っていうことだ。

まあ半分はただのカンだけどな」

「カン、って……でも、なるほどねえ」

ナツが納得して頷いているが、アキはまた思案顔だ。

「別の場所で犯行が行われる可能性があるんじゃないの?」

「そうなった場合は俺たちじゃ対策のしようがない」

「じゃあ、他の生徒みんなに知らせておいた方がいいんじゃないの? 校内ネットで何か作ったりして」

「大した効果にはならない。犯人の特徴もわかっていないしな。

それに不安を煽った結果警察にでも連絡されたらアウトだ。依頼内容に反する行動はしない」

警察沙汰にはしたくないという彼女の意思を尊重すればの話だが。

「でもこのままじゃどうしようもないんじゃない? もっと積極的に動かないと」

アクティブなナツは前衛的な行動を好むのである。

//チャイム

「っと、下校時間か」

今日はひとまず帰って作戦会議だな。

//移動 廊下

「……あなた」

部室をロックして廊下を歩き出すと、彼女に呼び止められる。

「高校に入る前は何をしていたの」

「中学の頃か? 何を、って……特に変わったことはしてないぞ。ひたすらこいつらとゲームしてたが」

「……そう」

それだけ言って彼女はさっさと先に行ってしまう。また謎が増えたな……。

 

//移動 自宅

「さて……これからどうするか、だな」

食事の中頃で会話を切り出すと、珍しく真っ先にアキが口を出す。

「そういえばある程度調べられたから一応教えておくよ」

「何か掴んだのか」

「あの女のことだよ。母親と妹の母子家庭で、両親は10年くらい前に離婚してる。

母親が結構なキャリアで、仕事で3年ごとに転勤してるらしい。

今年この辺りに引っ越してきたからうちに転入したんだってさ。

他にもいろいろ調べたんだけど、気になる情報は特にナシ。正直、普通の人だね」

すこし特殊な来歴ではあるが……。

「……ただ」

アキが眉をひそめて呟く。

「母親が転勤を始める前は、この街に住んでたらしいんだ」

「それが何か引っかかるのか?」

「……あの女、小学校は兄さんと同じ学校に通ってる」

「えっ、でも兄貴、あの子とは初対面なんじゃないの?」

「あ、ああ、そのはずだ。そのはずだが……」

俺の通っていた小学校は1学年60人程度の小さな学校だった。

今の全校生徒6000人のマンモス校では面識がない同級生がいてもおかしくはないが、60人なら見たことくらいあるはずだ。

「兄貴の学校、私も3年のときに転入したけど知らないよ?」

「いや、2年のときに親の転勤が始まって、3年の頃にはもうアメリカだったらしいね」

「……じゃあ兄貴が」

「ハル兄、わすれてるのー?」

俺の記憶に抜けがある、ってことか……?

いざ意識してみると、俺の記憶はナツが俺の家族になった頃から始まっている。

「……思い出せない」

それ以前の記憶に触ろうとすると、頭に釘でも刺されたかのような痛みが走る。

「ちょっと兄貴大丈夫? 薬飲んで」

リビングに置いてあった俺のカバンからナツが頭痛薬を出して渡してくれる。

「でもこれではっきりしたね。兄さんの頭痛の原因」

「ああ、俺の抜けている記憶でヤツと何かしらの関わりがあったんだろう。

……だが通り魔とは関係ないし、とりあえず今は置いておこう」

「でも気になるよ、私たちが来る前に兄貴が何やってたのか」

「きになるーきになるー」

「そこまではぼくじゃ調べきれないから何とかしてよ」

置いておこうっつってんのに。

「……まあ、手は打っておくから。それよりも今は犯人確保だ」

「でも、手がかりがないよ」

「こうなったら手当たり次第だな。アキ、現場に近い監視カメラをいくつか調べてくれ」

「わかった」

「で、ナツはあいつとひたすら仲良くなってくれ」

「一緒に遊べばいいの?」

「まあ、そういうことだな。親愛度を上げるんだ」

「親愛度ね! オッケー!」

ナツはなぜか恋愛シミュレーションゲームが得意だ。

「フウはー?」

「フウは俺と一緒に現場に行こう」

「ちょっと、危ないから私も行くって!」

フウが不満そうにしていたので言ってやると、ナツがすげえ顔で立ち上がった。

「絶対ダメだからね!」

「ダメっつったってお前……」

「ぜっっったいダメ! ダメ!」

これは絶対に譲らない姿勢だな……。

「わかったわかった。だが行かなきゃ調査にならないだろ」

「そうだけど、でも、んんんん」

「俺が小型カメラとマイクを持っていくから、ナツとアキはそれを使って俺の状況を確認すればいい。

何かあったらすぐにわかるだろ。アキ、ツールはあるか?」

「高性能のマイクロカメラと盗聴器とレシーバーなら4つずつあるよ」

4つずつとは用意周到だな。

「そんなに持ってるなんてアキはいやらしいなあ……ぐふふ」

汚い笑い方をするんじゃない。

「姉さんにはレシーバーは渡さないことにするよ」

大人になったなアキ……。

「ごめんごめんアキ、お詫びにお姉ちゃんの着替えとかお風呂とか盗撮していいから許して」

「それもう盗撮じゃないじゃないか!」

「盗撮だったらするみたいな言い方だねぇ~、いいよ、アキにならお姉ちゃんのエッチなひとり遊びも見せてあげるけど、どうする?」

大人になったなナツ……。

「~~~どどどうどど」

アキが真っ赤になってぶっ壊れた。

「あっ、ちなみにちゃんとオカズは兄貴の乱れた姿だから安心してね♡」

その情報は聞きたくなかった。

「ともあれこれで文句はないな、ナツ。お前の性癖に関しては言及しないでおいてやる」

「文句がないわけじゃないけど……あと私は逆に言及されたいかなーって」

やめろくねくねするな。

「それよりフウはこれでいいか? 怖かったら留守番してていいからな」

「フウはそれでいいよー。なにかあってもハル兄が守ってくれるから」

フウが一番大人だ……。

まあ相手が格闘技の経験者じゃなきゃ何とでもなるだろう。いつもナツの稽古に付き合ってボッコボコにされてるし。

「とりあえず明日の方針は決まったな、よし」

あとはこの行動が先につながるのを祈るのみだな……。

「私お風呂入ってくるね!」

しかし何か引っかかる。進んでも進んでも光が見えないような暗闇を歩いてる気分だ。

「兄貴! 私! お風呂入ってくるね!」

うるせーよ。

「ここはさっきの話のつながりでわかるでしょ! そういうことだよ!」

だよ! じゃなくてな。

「頭痛がしてきたからもう寝よう……」

悪い奴ではないんだがな……どうしてか周りを巻き込んで突っ走るところがある。

ナツは突っ走ってるしアキはぶっ壊れてるしフウはもう寝てるし俺ももう一日を終えよう。